きょうの六時間目はクラブの時間で、じぶんは、今年発足した、絵本を作るクラブの副副顧問みたいなものをやっている。
アドバイスをしたり、図書館にいっしょに行って参考になりそうなものを紹介したり、大したことはしないのでわりと気楽で、みんな楽しそうにやっているからいつもそのほほ笑ましさに癒されている。
のだけど、きょうは笑ったし驚いたし感動もした。
六年生の男子で、もう大丈夫かこの子は、と心配になるようなおちゃらけおふざけキッズがいて、たいていふざけているし大声あげるしうろうろ落ち着かないしでこまりましたなあ、という児童がいる。
もう作業をしている感じでもなく、近くの女子にちょっかいを出しては疎まれている感じがあったので、
その子のところに行って、手作りの絵本(市販の白い絵本を購入)を読ませてもらった。
上手くはない……むしろかなり下手の部類(字もぎりぎり読めるくらい)で、ストーリーもよくわからなくてその子に解説してもらいながらやっと読み終えることができた。
結局、何がどうなったのかは謎のまま。
「じゃあ、もう一回読んで、かくれている人間を探してみよう!」
と彼は楽しげに言う。
各ページにあるという、表紙に描かれている丸い顔を探しながらもう一度読むことに。まあ、読むというよりもとにかく探す。ミッケとかああいう感じで。
わりとかくし方にバリエーションがあって、どのページもちゃんと探しがいのある配置なのがよかった。最後のページに辿り着き、けっこうな達成感を感じていると、
「じゃあ、今度はオバケを探してみよう!」
と彼は言う。
また探すの!? と思いながら、もう一度最初からページをめくっていく。するとさっき探していた人間とは少し違うフォルム(涙の形みたいな)をしたオバケが、確かにどのページにもいる。
オバケも、ちゃんと元々の絵にかくれるように、なじむように、とけこむように描かれていて、ちゃんと探さないと見つからない。
それでも、最後のページまでオバケを全て見つけし、ふう! とひと息ついていると、
「じゃあ、今度は二人目の人間を探して!」
と彼は言う。
二人目って? ときくと、どのページにも、最初に探した人間がもう一人ずつかくれているのだという。
信じられない、という気もちでページをめくっていくと、たしかに、いた。
それも、また違ったパターンで、ページ全体が顔になっていたり、絵本を横向きにしないとわからないようになっていたりと、やっていて飽きない。
気づくと夢中でそのへんな顔を探していた。
子どもにもどったような気分だった。
もうこの時点でこの絵本は素晴らしいと確信していたんだけど、さらに、
「まだ真珠があるからね!」
と彼が言うので、じぶんの耳を疑ってしまった。
どこにそんなものがかくれていたの。と思いながら再びページをめくっていく。
と、ある。たしかにその、○から波線が出てるマークが、どのページにも。
途中で、じぶんの心が変化してきていることに気がついた。
もうないの? これでおしまいなの?
早く、次のページも。
まだ用意してるんじゃないの?
このページはどこ?
ああ、でも終わっちゃうのがさみしいな……。
これはあれだ。
凄く楽しい読書をしている時にしか感じない、あの、幸福な葛藤。
ぜんぶのページにあるちいさな真珠を見つけた瞬間の達成感。
あー楽しかった! って、友だちの家でめいっぱい遊んだ後、自転車のペダルを漕ぎながら感じたあの満ち足りた心を思い出した。
「天才だよ、これ」
普段だったら大げさにしか聞こえないような言葉を、つい言ってしまうくらい興奮していた。でも、一冊の絵本で、五回も楽しめるなんて。
しかも、きちんと計算されたかのような絶妙な難易度で。
小説でもゲームなんかでも、こう、空間や場面を再利用していたりするとたまらなく気もちよかったりするけど、まさにそれ。
このクラブにじぶん必要なのかなあ、って思ったりもしてきた半年間だけど、きょうのためだったんだと思うと、その先にあるかもしれないものを信じることも大切に思えたりなんかして。
とにかく、いつもはちゃらんぽらんでどうしようもないあの彼に、きょうは最大限の感謝と称賛をおくりながら眠りたいと思う。
あたたかな笑顔をくれた彼が、いい夢をみますように。