『こびん』
松田奈那子
風濤社
たいせつなものをあずかったこびんは、波にゆられ、うみべのまちにたどりついた。
こびんを見つけた兄弟は、笑い合いながら返事を書く。
そして、また、こびんは海へと投げ入れられた。
こびんはまた、たいせつなものをあずかった。
こびんは夜の海をただよった。そのなかを、兄弟の笑い声でいっぱいにして。
にぎやかなはまべ、ゆきのふりつもるすなはま、きれいな花のさくかいがん。
こびんはいろいろな場所に旅をして、そのたびに、たいせつなものをあずかった。
それぞれの、たいせつなものは、こびんによってとどけられた。
そうしてそれは、いつか、どこかのだれかへのおくりものになる。
耳から聞こえる音が少しずつフェードアウトして、頭のなかに音がなり始める。それは、こびんをゆらす波の音であったり、こびんがたどり着いた町の喧騒であったり。
こびんがはこぶ、だれかのたいせつなものが、だれかを笑顔にしたり、やさしい気もちにさせたり、まさに小さな、だけどたしかにすてきなおくりものになっている。
こびんをうけとったひとたちのことが、細かく描かれていないのがいい。読者がそれぞれにその思いや雰囲気を感じられる。そういう絵。
また、手紙の入ったこびん、というモチーフが、世界をあたたかに包みこむなにかを示しているような物語の閉じられ方もすばらしい。
現実の世界では、たとえばだれかが作った音楽や、雨の日にそっとさしだされる傘、店を出ていくひとにかけられる声やゆきだるまの上にのせられたニット帽、そういうものたちがこのこびんのような役割を果たしているのかもしれない。
じぶんがこうして息をしている、ということの裏や奥にあるものに手をのばしたくなるような絵本。大人もきっと大好きになる。
大切なだれかに贈りたくなる一冊です。
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