以前、この記事↓
で、ひとりでフィンランドに行った時のことを書いた。
そうして、当時のことをいろいろと思い出しているうちに、かもめ食堂という映画が懐かしくなってきたので、TSUTAYAでレンタルしてきた。
初めて観たときも、空気感が好きだとか言っていた気がする。
ほかのひとのレビューとかを読んでも、そういうひとが多い。
そう、空気感がかなり独特。
ざっくりとしたあらすじを。
フィンランドの首都ヘルシンキに、ひとりでかもめ食堂という小さな食堂を開いたサチエさん。
ある日書店のカフェで、ムーミンの本を読んでいるミドリさんに出会い、ひょんなことから、ミドリさんはかもめ食堂のお手伝いをすることに。
かもめ食堂は繁盛しているとは決して言いがたい状況で、でも、だからといってサチエさんががつがつ経営改善に取り組む、というわけでもなく、まあ、来るときには来ますよ、というような感じで、のんびりとしている。
コーヒーを毎日のようにただでのみにくる青年や、コーヒーが美味しくなるおまじないを教えてくれる男の人など、風変わりなお客さんは来る。
でも、これといった大きな事件やできごともなく、物語はたんたんと進んでいく。
やがて、あるひとりの日本人女性がかもめ食堂を訪れる。
それは、空港でじぶんの荷物を紛失されてしまったマサコさんという女性。
困っているんだかそうでもないんだか、サチエさんはそんなマサコさんもかもめ食堂に受け入れる。
マサコさんに話をきくと、テレビで目にしたフィンランドのエアギター選手権。その大らかさにひかれて、フィンランドにまでやって来たのだという。
その後も、物語はしずかに進んでいき、やがて、小さな事件が起きる。
かもめ食堂の中をいつもぎろりとにらむように見つめては去っていく女性が、ついに、お店に入ってきたのだ。そうして、彼女がたのんだのは……。
あらすじを書くのが難しい小説、というのがある。
わりと、純文学に多いイメージだけど、それはきっと、物語における起伏を楽しむというよりも、文章からにじみ出る人間、人生、思考を味わうことに焦点があてられるから、なのかな。
言葉のひとつひとつが、噛めば噛むほど味が出るあれのようになっていて。
このかもめ食堂という映画も、それに似ているような気がした。
物語を楽しむ、というよりも、そこに映し出されている風景や人間の姿、行動やことば自体を楽しむ。
雰囲気がいい、というのも間違ってはいないと思うけど、ぜったいに、それだけじゃない。
個人的には、ミドリさんがサチエさんに最後の晩餐にじぶんを呼んでくれます? ときいたときに、サチエさんがえー、という反応をして、それにミドリさんが拗ねるシーンにぐっときた。なんでかよくわからないけど。
それから、トンミという日本かぶれの青年が、最後までマイペースに、これといったアクションを起こさない辺りも。
日常って、そういうもんだと教えてくれるかのよう。
それに対して、ミドリさんがある日怒り出すのも人間臭い。
最後にはよくわからないノリで、ハイタッチをするような仲になっているのも好き。
フィンランドに行ったときに実際に行った、あの青空市場みたいな場所。
周りにはテーブルやイスがあって、みんなのんびりコーヒーを飲んだりしていて、そのたまらない空気感を思い出して、またフィンランドに行きたくなった。
派手なアクションや、凝ったミステリー、美しいアニメ。そういった映画が増えている昨今。かもめ食堂みたいな映画はあんまり見かけない。
観返していたら、じぶんをもっと大切にしなくちゃと思った。
やりたいことは絶対にやった方がいいし、いたずらに傷つくような場所にいる必要もない。
前向きになれる、って、よくある言い方だけど、前向きになりたくなる、の方がこの映画には合っている気がする。
観たことのないひとにはぜひ観ていただきたい。
ゆるく、そしてあたたかな、十一月の空の下でのんびりと飲むコーヒーのような映画。
直行便で十時間ほどかかるフィンランドがとても近くに思えてくる。
また、数年後に観返したくなる日まで。