今回は『ビッグコミックスペリオール』にて連載中の、押見修造さんの作品『血の轍』からスタートして、どこかしらが似ている・共通している・ジャンルが近い、といった作品を、ブックトーク形式で紹介してみたいと思います。
〇血の轍
押見修造さんは『惡の華』や『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』といった、思春期真っただ中の少年少女の 心の叫びを描いた漫画を数多く世に送り出しているというイメージがあります。
今作『血の轍』も、中学二年生の男子、静一が主人公で、同級生との淡く初々しい恋愛模様も描かれてはいるものの、主題は、母と息子の関係です。
静一の母、静子が見せる過剰なまでのスキンシップの数々と、それに対してうっすらと、自分の気持ちの変化を感じる静一。
美しすぎる母親と、その愛を受けとめる息子の関係に、少しずつヒビが入っていきます。その緊張感が、たまらないのです。
『惡の華』でもそうでしたが、押見修造さんの描く漫画は、説明的なものをぎりぎりまで削ぎ落とし、描いていないものまで読者に感じさせるようなスタンス、という印象があります。
セリフのないページが多いのですが、その、小説で言うところの行間を読みたくなるような描き方で、今作も、静一の葛藤、苦しさが表現されています。
静一のためならほかのものがどうなろうと、といういきすぎた愛を注がれる静一が、お母さんよりも優先したいことができたとき、お母さんはどうなってしまうのか。
現在も連載中ですので、今後、静一と母親の関係がどこまでふり切れていくんだろうとこわいもの見たさの気持ちで、続きを心待ちにしています。
〇夏のこどもたち
こちらは川島誠さんの『夏のこどもたち』。
表題作で、母親と息子が大変なことになっているので、そのつながりで。
主人公の朽木元は中学三年生。
成績優秀のだれもがみとめる優等生で、だけど彼には左目がない。
ある日、学校一の問題児と共に校則委員に選ばれる。
転校生の中井もいっしょに、だけど、彼女はあんまり熱心ではない。
主人公も、どちらかと言えば、冷めた目。右目だけの。
それで、ふたりで、砂浜に行ったり、屋根裏部屋のようになっている中井の部屋に行ったり、そっちの方が、ずっと楽しい。
でも、次第に母親の様子はおかしくなってくるし、主人公の性欲は、別の方向へと向いていく。
最終的には、主人公は、やってしまう決断をする。
でも、なにを?
という感じの青春小説です。
表紙の爽やかな絵にはだまされてはいけません。内容は爽やかさとはむしろ真逆と言っていいくらい、ほの暗く、湿度の高い物語。
ほかに、こんなに子どもの(特に男の子の)性をストレートに描いてしまっている児童文学作品は読んだことがない。
川島誠さんはどの作品でも、その部分を包み隠さず、というよりもむしろ全面に押しだすくらいの勢いで書かれている方なので、そういうのがお好きな方には100パーセントおすすめです。
〇放浪息子
表紙つながりで、先ほどの『夏のこどもたち』の表紙絵を担当された志村貴子さんの作品『放浪息子』にバトンタッチします。
子どもの「性」を描いている、という点では同じですが、こちらはどちらかと言えばジェンダーとかセクシャル(マイノリティ)という方面の漫画。
女の子の服を着たい二鳥修一くんと、男の子になりたい高槻よしのさんを中心に、小学生から高校生になるまでの成長物語。
小学五年生のある日、二鳥くんはクラスメイトに女装をしていたところを目撃され、高槻さんは学ランを着てひとり遠方の町にくり出す。
ふたりはそれぞれの悩みを抱えながら、時に近づき、時にすれ違いながら、本当の自分を見つめはじめる。
とにかく、絵が素敵なんです。
ごちゃごちゃした絵の漫画が苦手なので、初めて手にとった時は、なんてすっきりとした漫画なんだろう……! って、感動したくらい。
それで、絵に負けないくらい、ストーリー、キャラクターも素敵。
やさしいけど頑固なところもある二鳥くんや、優柔不断でさばさばしている高槻くん。
二鳥くんに恋をしてかわいい服をどっさり贈ろうとする千葉さんも、二鳥くんのように美少年じゃないけどやっぱりこちらも女の子になりたい有賀くん。
どの登場人物にもそれぞれに悩みや葛藤があり、複雑に絡まり合いながら解決したり、こじれたり、別の形になっていったりと。
中学生になると、より世界が広がっていったり、傷つくことも増えていったりと、自然な流れでそうしたリアルさが、いたるところに含まれています。
ノイタミナでアニメ化もされましたが、こちらも抒情的な雰囲気があって、素晴らしかったです。
子どもが少しずつ大人になっていく様を読みたい、というひとにおすすめします。
〇ぼくがスカートをはく日
女の子の服を着たい男の子、つながりで、次はこちらの海外小説です。
主人公の12歳のグレイソンは、女の子になりたい男の子。
服も、できるだけ女の子の服に思えるようなものを選び、女の子の絵をこっそりと描いている毎日。
ある日、掲示板にはられた演劇のオーディションのチラシを見たグレイソン。
次第に演劇に対する興味がわいてくる。
様々な役の中から、グレイソンが希望したのは、女神、つまり女性の役だった。
果たして、グレイソンはオーディションに受かり、主演女優になることができるのか。
そして、本当の自分とどう向き合っていくのか。
日本ではまだ少ないLGBTQものの児童文学作品です。
描写や言動はマイルドな印象ですが、主人公として、ここまで切り込んだ内容のものは珍しいのではないでしょうか。
本当の自分を隠して生きる苦しみ、本当の自分をさらけ出して味わう苦しみ。
そのどちらをも知りながら、主人公が成長していく過程が鮮やかです。
〇ピンクがすきってきめないで
ジェンダーつながりで、次はこちらの絵本です。
女の子だからといって、みんながみんな、ピンク色のものが好きなわけじゃない。
同じように、男の子だからといって、みんながみんな、恐竜が好きなわけじゃない。
女の子でも、虫やスポーツカーが好きだったりするし、男の子でも、おままごとやかわいらしいキャラクターグッズが好きだったりする。
人間、二種類しかいないわけじゃない。
それぞれに、個性を持った、ひとりひとりの人格。
~だからって、~だって決めつけないで! と絵本の中でも叫ばれているように、世の中は偏見と決めつけであふれている。
子どもの目線で、そうした誤りに気がつくことができると同時に、差別はいけないことと子どもに教えているわりに、自分たちのことには目がいかない大人の傲慢さも教えてくれる絵本です。
〇ミカ!
女の子らしさとは、というつながりで、こちらの小説。
ミカはオトコオンナってよばれてる。
小学校に入ってから一度もスカートをはいたことがないし、おっぱいなんていらない、と言うし、なんで女に生まれてきたんやろ! とさけぶ。
そんなミカのそばにいつもいるのが、双子の兄ユウスケ。
クールだけどちょっと鈍感で、とぼけているようでガッツがある。
そんなふたりはある日、へんな生きものを見つける。サツマイモみたいなものに毛が生えていて、目も鼻もなにもわからない、なぞの生物。
その生きものを、ふたりはこっそり飼うことにする……。
読者に語りかけるような関西弁で、テンポよくすらすら物語に入っていけます。
謎の生きもの(ふたりはオトトイと名付けます)の正体が気になって、先へ先へとページをめくりたくなってしまいますが、ひたすらはちゃめちゃだったミカの心境、言動の変化にも注目してほしいです。
児童文学の賞を受賞していますが、大人でも十分楽しめる傑作です。
〇びりっかすの神さま
なぞの生きものの存在を共有する、というつながりで、次はこちらの作品。
児童文学として書かれてはいますが、大人が読んでも十分読みごたえのある、むしろ、大人の心にずしんと響くような作品です。
物語は、主人公の始めが転校先の学校で、クラスのみんなにあいさつをするところから始まる。
黒板の前に立ち、あいさつをしようとすると、おかしなものが見える。
それは、羽の生えた小さな男のような姿をしている。
新たな学校生活がスタートし、やがて、始はあることに気づく。
それは、なにかでビリになったとき、あの小さな男の姿が見える、ということ。
そして、始といっしょにビリになった子に、あるできごとが起きる。
それはとても楽しく、わくわくするようなこと。
ビリになりたい! と思う子どもが増えていく……。
クラスの様子が少しずつ、少しずつ、変わっていく。
ビリになった時にだけ見えるびりっかすの神様、という設定がもう面白い。
さらに、びりっかすの神様が見えるようになった時に得られる力というのが、また、子どもたちの好奇心に拍車をかける。
物語として面白い、というのがまず第一なのですが、岡田淳さんの小説は本当にいろいろなことを考えさせられ、感じさせてくれます。
ビリになったら楽しいことがある、ということを知ったら、子どもたちはどうするんだろう。それに対して、大人はどうするのが正しいんだろう。
以前、一年生の担任をされていた先生におすすめした所、泣いた、と言って、クラスのおたよりにも載せてくださったことがあります。
すべての大人におすすめしたい一冊です。
〇神様のみなしご
神様つながりで、次はこちらを。
『夏のこどもたち』と同じ作者、川島誠さんの小説(好きなんです)。
舞台は海のそばにある愛生園という名の児童養護施設。
昔風に言えば、孤児院。
父親が殺人を犯した双子の兄弟。父親が経営する会社が倒産し、引き取られた親戚の家でうまくやっていけなかった女の子。水商売をしている母親を殺された美少年。
彼らはいろいろな事情を背負いながら、愛生園で暮らしている。
登場する子どもたちが抱えている過去は、どれも、暗くてびっくりするほど重いのですが、彼らはくよくよしてばかりではありません。
父親が殺人を犯し、母親にも捨てられたという人殺しA人殺しBの双子の兄弟は、生きるということに疑問を持ちながらも、サッカーをしてたい、という一心で日々を過ごしています。
父親からの虐待を受け、ぼろぼろの身体でやってきたゴウジという少年は、あたたかく、おいしいご飯が食べられる愛生園に、ずっといたい、と思っています。
境遇は悲惨だったりしますが、子どもたちは、くよくよじめじめしているばかりではありません。
見事な伏線回収があるわけでも、胸熱くなるような展開があるわけでもありません。
が、この本を読んだ後と前とでは、世界の見え方が違っているかもしれない、そんな一冊です。
〇最後に
ひとと本の話などをしていると、この作品が好きなら、こっちも好きかもしれない、と思うことがたびたびあります。
必ずしも、その法則が成り立つというわけではありませんが、テーマが似ていたり、読み味が近かったりするもの、というのは、どうしてもおすすめしたくなります。
今回はややこじつけ気味のところもあったりなかったりですが、どれか一冊でも好きな作品がありましたら、そこから別の作品に手を伸ばしていただけたらうれしいです。