『クマと森のピアノ』
デイビッド・リッチフィールド:作 俵万智:訳
ポプラ社
あらすじ
森の中で「へんなもの」を見つけたブラウンは、おっかなびっくりそれにふれてみます。
すると、ぽろん、と音がします。
気になったブラウンは次の日も、その次の日も「へんなもの」をさわりにやって来て、やがて、なかよしになります。
森にやって来た親子にそれが「ピアノ」であることを教えてもらい、また、都会に行けばもっといろんな音楽を聴けるし、有名にもなれると言われ、ブラウンは迷います。
森の仲間たちはなんて言うだろう……。
でもブラウンは都会に行きました。
そして、またたく間に人気者になり、ホールでコンサートをするほどのピアニストになったのです。
でも、ブラウンは思いました。「なにかがちがう。なにかが足りない」と。
ブラウンは森に帰りました。けれど森の様子が前とは違っていて……。
感想
まだこぐまだったブラウンが無邪気にピアノで遊んでいるうちに、大きく成長する頃には、素晴らしいピアニストになっている。
それは、このブラウンだけに起きることじゃなくて、世界じゅうのどんな子どもにも起こりうるんじゃないかなと。
そうしてそれだけじゃなく、今度は多くのひとに観てもらう、聴いてもらうチャンスを逃さなかった、というのが大事。
小さなころから好きで好きでそのことだったらだれにも負けない、ということがあっても、だれも知らないままだったら、それは、その本人だけのもの。
最近で言う、崎山蒼志くんがブレイクしたのも、これに近いのではないかな。
彼はあのネット番組に出ていなかったとしても、どこかでだれかが発掘して、同じような状況になってはいただろうとは思うけど。
運命の選択をしたブラウンが手にしたたくさんのものは、でも、ブラウンにあることを気づかせてしまう。
それは、手にしたものではなく、じぶんが持っていないもの。
欠けている、なにか。
そのことに気づいたブラウンは、その瞬間、今まで以上に、「彼ら」のことが大切に思え、なくてはならないものなのだと自覚する。
という部分がいい。
有名になったり、地位や名誉を手に入れたりして、それまでじぶんが大切にしてきたものをすっかり忘れてしまう、というひとは少なくない。
でも、じぶんの原点を思い返し、その想いを捨ててしまわなかった、というのがブラウンの素敵でかっこいいところ。
世の中の、上に立ったとたんにひとが変わってしまったようなひとたち(政治家だとか、会社の重役だとか)、そういうひとたちにぜひ読んでもらいたい。
ラストのシーンは、多くのひとの胸に響くのでは。
今までにいろんな絵本を読んできたけど、この作品ほど温かい気持ちになれた絵本はないかもしれない。
本当に、多くのひとに読んでほしい一冊。
子どもはもちろん、大人にも。
大げさだって言われるかもしれないけど、ほんと、一家に一冊あってもいいくらい。
対象年齢は6~大人までと言っていいと思います。
ぜひ読んでみてください。
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