絵を描くのが苦手です。
中学校の美術の授業では、自由課題の絵を提出した学期の成績が、2だったこともありました。
周りで、というか、その当時自分の中でネッシーが流行っていて、春夏秋冬の風景をバックにネッシーが佇んでいる絵にしたのがいけなかったのでしょうか。
そんな私なので、できれば絵を描くということを一切しないでこのまま一生を過ごしていきたいという気もちで常にいっぱいなのです。
でも、描かなければいけない、という瞬間は、そう度々ではないですが、忘れた頃にやってくる歯ぐきの痛みのように、時おり、ふいに訪れます。
書店員のアルバイトをしていたことがあります。
そのとき、どうしてもPOPを書きたいと思っていて、でも、絵も描かなくちゃだいやだなあ、などとふぬけたことを考えておりました。
実際、絵を描かなくても良いPOPというのはたくさんありますし、無理してまで描くこともないのですが、できることならオシャレなPOPを書いてみたいという欲がふつふつとわき上がってきました。
でも無理だったのです。
絵を上手に描くために時間を費やししているくらいなら、という半ばやけくそな気もちとともに、それならば文章とインパクト重視でいこう、と考えるようになった私は、とにかく、売りたい本、読んでほしい本のPOPを書きまくりました。
それまで、POPを書くということはしたことがありませんでした。
ツイッターで読了ツイートを打ったりもしていませんでしたし、周りに本が好きなひともほとんどいなかったので、本の紹介をするという機会は皆無でした。
なので、最初はぐだぐだの何がどうおすすめなのかちっとも伝わってこないPOPばかりを量産していたのですが、次第に、書けるようになっていきました(上手くなったかは置いといて)。
その一部が、こんな感じです。
笑えるくらい、絵がありません。
それでも、なんとなくいい感じに見せようという努力がかいま見える辺りをほめていただきたいです(ほめられて伸びるタイプです)。
だんだんと、POPを書くのが楽しくなっていきました。
POPを書くと、あたり前かもしれませんが、本がよく売れるのです。
でも、POPを書いても売れない本もあります。
ただ平積みしていただけだったときには月に3冊しか売れていなかったのに、POPを書いたとたんに月に30冊売れた、ということも珍しくありませんでした。
それは、もちろん、ほとんどは本の力です。
あらすじの魅力であり、装丁の魅力であり、作家の魅力がほとんどです。
ただ、そこにちょびっとだけでもPOPの効果というのが混じっていても、だれも損はしないと思うのです。
そんな風にして、絵を描きたくない書店員はPOPを書く楽しさにはまっていったのでした。
こう書けば必ず売れる、という言葉はないと思います(あればそんなPOPばかりになってしまうでしょう)
でも、こんな風に書いた方が反応がいいな、ということは、下手な鉄砲理論ではありませんが、数多くPOPを書いているうちに、少しずつわかってきます。
「買って、最後まで読んで、ちっとも感動しなかったら、文句を言いに来て下さい。」という文章だけのPOPを書いたこともありました。
だったのですが、当時の自分にはそれほど自信があったのでしょう。
今だったら、こんなこと、こわくて書けません。
だって、ちっとも感動しないひとなんていくらでもいるでしょうし、誇大広告だと訴えられでもしたらと思うと……。
でも、結果的にクレームは一つも入ってはきませんでした。
本当に感動した、という方もいらっしゃるでしょう。
それから、別にそれほど感動はしなかったけど、わざわざクレームを入れにいくほどでもない、という方も。
売り上げは予想以上にどーんとアップしました。
それまでも、夏の文庫フェア等で売れる商品でしたが、POPを書いてからは二ヶ月ほどで50冊越え。
都会では大した数字ではないかもしれませんが、田舎の中型書店にとっては十分大したものです。
他には「読んで後悔させません。自信が有るので、色々言いません。」という煽りまくりの文も。
こちらは『ミカ!』伊藤たかみ
のPOPに書きました。
伊藤たかみさんの本はどれも好きなのですが、児童文学やYAが特に好きなんです。
『ぎぶそん』という作品があるんですがこれが最高なのでまたいつか紹介したいと思っています。
本当に、何も言っていないPOPでしたが、『ミカ!』の文庫も売れました。
月に5冊以上は、しばらく動いていたくらい。
そんな風に、大げさだけど嘘は言っていないようなPOPの書き方を覚えた文庫担当は、文庫のコーナーをPOPだらけにしていきました。
POPを読んでいたお客さんが、その本をレジに持っていくときに立ち合ったときのうれしさは感動ものです。
書店員は三年足らずでやめてしまいましたが、このときの経験が小学校の司書になった際にびっくりするほど活きました。
小学校で教員をされたことのある方等はよくご存じでしょうが、五年生には好きな本を紹介しよう、みたいな単元が国語でありますよね。
そこで、子どもたちにPOPを書かせる、というクラスが多いのです。
帯を書かせる、というところもあるようです。
そんなわけで、元書店員の司書が来たということで、POPの書き方講座をやってほしいという話になり。
はっきり言って、技術的なことは全くわからないししゃべれないので、書店ではこういうPOPを書くとよく売れただとか、絵が苦手な人はこんな風に書くこともできる、とかそんなレベルでしたが。
それでも、書店でPOPを書いたことがなかったら、なにをしゃべればいいのか見当もつかなかったことでしょう。
書店員時代のPOPも全部取っておいたので、見本として子どもたちに見せてあげられたのもよかった。
残しておいたPOPを本と一緒に図書館に飾ったこともありました。
先生たちから「本屋さんみたい!」と言っていただけて、そこで、じぶんのなかの図書館運営の方針が決まったような気がしました。
書店員時代とあまり変わらないかもしれませんが、こちらが、司書になってから書いたPOPです。
少しはマシになってきているでしょうか(センスがほしい)。
最後に、わりと最近書いた、学校の図書館に展示してあるPOPを使って、おすすめの小説三作品をさくっと紹介させてください。
まずはこちら。『ぼくがスカートをはく日』です。
POPに書いてある通りの物語です。
放浪息子 コミック 全15巻完結セット(BEAM COMIX)
志村貴子さんの『放浪息子』というマンガがあるのですが、まさにその海外文学版のような一冊でした。
タイトルを読んで笑う子どももいますが、きちんと読んでくれた六年生の女子なんかはすごくよかった、面白かったと言って、返却してくれました。
次はこちら。『となりの火星人』です。作者は工藤純子さんです。
空気の読めない子や、すぐに癇癪を起こしてしまう子、周りの子から見たらまるで火星人のようにむずかしい子どもたちの日常を描いた児童文学です。
小学校で働いているせいか、ああこの人物はあの子みたいだ、とか、つい現実と照らし合わせてしまいましたが、それも、言動の描写がリアルだからでしょう。
子どもだけでなく、子どもたちのそばにいる大人にも読んでほしい一冊です。
最後はこちら。『泥』ルイス・サッカー です!
ルイス・サッカーといえば『穴 HOLES』が超がつくほど有名ですが、こちらの作品でも、ルイス・サッカー節が終始効いていて、ファンにはたまらない一冊になっていると思います。
まじめな女の子タマヤと、いじめられっこのマーシャル、そしていじめっこのチャドの運命に、ずっと、ハラハラさせられます。
半分ほど読んで、怖くなって読むのをやめてしまったという児童もいました。
が、あらすじを紹介すると、多くの児童が読みたいと言ってくれます。
このPOPの「読めば読むほど怖くなる」というのが、怖いもの好きの子どもたちの心を惹くようで、よく、かりられてる? ときかれます。
紹介したクラスの担任の先生も読んでくださいました。
環境問題という、ルイス・サッカーらしくない(?)重いテーマを含んでいながらも、コミカルな部分も顔をのぞかせる一冊です。
そんなわけで、また長くなりましたが、絵を描くのが苦手な大人でも、頑張ればあんな風に一応POPを書くことができるようになる、という話でした。
ではまた。