『あかり』
林木林:文 岡田千晶:絵
光村教育図書
あたらしいろくそくに、はじめての火が灯った。
生まれてはじめて照らしたのは、生まれてまもない赤ちゃんと、幸せそうに笑っている家族だった。
お母さんが、子どものしあわせを願って作ったろうそく。
大切な夜にだけ、火を灯す。
次に火をつけてもらったのは、赤ちゃんの一才の誕生日。
少し大きくなった赤ちゃんを、ろうそくの火はやさしく照らし出す。
女の子は、大切な日ごとにろうそくにあかりを灯してもらい、成長していった。
ろうそくは反対に、少しずつ小さくなっていった。
さいしょはしあわせなときを照らすあかりだったのが、いつしかつらいときに寄りそうあかりになっていた。
くらやみがこわい夜や、けんかしてだれの顔も見たくない夜。
ひとりぼっちの夜。
やがて女の子は大人になり、家を出ていくときが来て……
感想
ろうそくのあかりと共に生きた、ある女の子の一生が詰まった絵本です。
おかあさんの願いがこめられた、一本のろうそく。
そのろうそくが照らし出すあかりは、まさに、おかあさんの想いそのもののようです。
シンプルなお話の中に、いろいろな言葉のふくらみが隠されています。
そういう意味では、この絵本は純文学のような文章だと感じました。
そんな絵本は、ほかにあまりありません。
『おおきな木』の文章に近いものがあります。
物語のテーマも、若干違ってはいますが、どことなく似ているような気がしないでもないような……。
この紹介文を書きながら、すごく似ているように思えてきました。
でも、だからどうということもないんですが、含みの多さという点では、この絵本の方が多彩かもしれません。
子どもが読んでも面白いでしょうし、ぐっとくる子もいるでしょう。
でも、この作品はさまざまな経験をしてきた大人が読んだときに、より深い味わいを感じられるような気がします。
そういう作りになっている、と思うのです。
私自身も、こんな風にしあわせなときだったり、つらいときだったりに寄り添ってくれるろうそくがいてくれたらなあ、と思いましたし、自分にとってそれはあれなんじゃないだろうか、という別の思いに至らせてくれもしました。
きっと、この作品を読んだ方々の多くには、このろうそくのような何かを持って、生きてこられたのではないでしょうか。
そんな風に普遍的な要素を持っているろうそくだからこそ、この物語を読んだときに、すっと心にしみてくるものがあるのかもしれません。
いつか自分にも子どもができたそのときには、願いをこめた何かを作ってあげたい。
そんな気持ちにさせてくれる、やさしい一冊でした。
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