本棚のすき間

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『おれからもうひとりのぼくへ』書評【友だちのことを考える児童文学】

おれからもうひとりのぼくへ 書評

『おれからもうひとりのぼくへ』

相川郁恵:作 佐藤真紀子:絵

岩崎書店

おれからもうひとりのぼくへ (おはなしガーデン 53)

おれからもうひとりのぼくへ (おはなしガーデン 53)

 

 

あらすじ

もうこんな時間、と思いつつ、主人公の智は、母ちゃんが作ったドーナツと父ちゃんの知り合いの酪農家が作っている牛乳を味わう。

友だちの、翔平とまさとはもうきっと運動公園に先に着いているだろう。

食べるものを食べて、智は大急ぎで、自転車に乗った。

 

そして、勢いよくペダルをふんだ、そのとき。

 

突然、目の前に一台の自転車が現れた。

ぶつかる! と思ったつぎの瞬間。

智は自転車にまたがったまま、ひとりでつっ立っていた。

 

だれともぶつからず、横をすり抜けていった人もいない。

そういえば、と智は思う。

いまの子、自分にそっくりじゃなかったか?

 

気をとりなおして、運動公園に到着すると、翔平とまさとはそこにいなかった。

夕日がその色を増していっても、ふたりは来ない。

 

なにかあったのかと、翔平の家まで自転車を走らせると、そこに、ふたりはいた。

 

「え、なんでいんの?」

「え、なんで来たの?」

かみ合わない会話。

約束したはずなのに、なんだかおかしい。

いつも一緒にいる親友だと思っていた。

なのに、じゃまものみたいに扱われて……

 

家でも、家族がいつもと違うし、自分の部屋が本だらけになっている。

学校に行けば、クラスメイトの性格が正反対になっている。

 

もしかして……あのときすれ違った自分にそっくりな男の子と、世界が入れ替わってしまったのかもしれない。

もとの世界にもどれる日は来るのだろうか……?

 

感想・レビュー

パラレルワールドに迷い込んでしまった智の、短い冒険譚。

いつもと違う友人家族に対する戸惑いが、やがて、現実世界にいる彼らへの想いに繋がっていく過程にぐっときた。

 

一歩違っていたら、だれでも、こんな風じゃなかったかもしれない。

友だちだって、全然違う性格だったかもしれない。

 

でも、どんな風であっても、おれたちは友だちになる。

そんな力強い友情がかいま見え、それがちっとも押しつけがましくないのがいい。

 

友だちって、ふしぎな存在。

前のこの記事で

www.nahdaannun.com

友だちについて書いたけど、友だちって、自分で選んでいるようで、実はそんな選択も許されないくらい運命的な何かによって勝手に決まっているようでもある。

 

自分だって、何かの決め手があって、だれかと友だちになった、ということはない。

気づいたら仲良くなって、いつも一緒にいるようになって、って、だいたいみんなそんな風なんじゃないだろうか。

でも、そういうことを意識的に考えたりする子どもって、まずいないと思うんだけど、この作品を読むとそういうことに気がつくきっかけになるかもしれない。

 

友だちがいるということが、いかにふしぎで、大事で、かけがえのないことだって。

そばにいてくれる友だちについて考えたくなる一冊。

さらっと読めます。

 

 

それではまた。