本棚のすき間

読書・書店・学校図書館についてのあれこれ

学校司書がその月だけは給食の時間を好きになれた話

どこの学校司書もそうなのかはわかりませんが、私が勤務したことのある小学校では、司書は給食の時間、各クラスに入らせてもらって、いっしょに給食を食べていました。

初任校は単級だったので、月ごとに入るクラスが変わるという形です。

 

司書は基本的には図書館を棲み処としているので、あまり教室にお邪魔するということはないのですが、その時間だけは正当な理由をもって教室に入ることができます。

そうすると、普段は図書館に来ているときの顔しか見られない子どもたちの、教室での姿が見られます。

教室にいる時間の方がずっと長いですし、リラックスした給食の時間ということもあって、本当の姿みたいなものが表れているのです。

 

図書館ではいつも何の手もかからない目立たないと思っていた子が、給食の時間にはめちゃくちゃ騒いでいて、先生にしょっちゅう注意をされていたりします。

ああ君はそういう子だったんだな、いつも図書館に来るときは図書館らしくふるまってくれていたのか、ねこをかぶっていたのか、とにかく、おとなしくしてくれていたんだな、と思うと、ほほえましい気もちになります。

 

もちろん、図書館での姿と教室にいる時の姿に何ら変化が無い児童もいます。

むしろ、たいていの子はこっちのタイプです。

 

面白かったことが一つあって、三年生のクラスに給食にお邪魔することがあって、行ってみると、近くの席の男の子の机の上に、なにやら画用紙が何かで作った棒状のものが立っていました。

 

よく見ると、その手前に「レバー」と書かれた紙もセロテープで貼ってあります。

「それ、なんのレバーなの?」

ときいてみると、となりにいた女の子が代わりに答えてくれました。

「○○くん、いつも声が大きいからね、先生に、ちゃんとその場に合った大きさでしゃべるようにって言われたの」

男の子は照れくさそうに笑うと、

「そう! だからこのレバー作って、これで声の大きさ調節すんの」

となかなかのボリュームで教えてくれました。

たしかにその子は声量がものすごくあって、よく通る高い声をしていました。

 

近くにいって見てみると、レバーの奥と左右にも紙が貼ってありました。

左には「○○ちゃん」

奥には「先生」

右には「クラスみんな」

と書かれた紙が。

考えていると、男の子が説明してくれました。

 

「左は、となりの席の○○ちゃんにだけ聞こえるくらいのちいさな声。で、奥は先生に聞こえるくらいの声で、右はみんなに聞こえるくらいでっかい声!」

なるほど。

レバーをどこかに倒すことで、その決められたボリュームの声を出すように意識するというわけか、なんて、ふむふむと感心していました。

 

それでまあ、給食の時間が始まって見ていたら、そのレバーは全く活用されておらず、給食ののったトレーに押しやられていまにももげてしまいそうになっていたわけなんですが、まあ、もしかしたら主に使われるのは授業の時だけなのかもしれません。

そんなしょっちゅう、たびたびレバーで調節していたら大変。

 

と、いうできごとがあって、あぁ子どもの発想ってなんて柔軟で面白いんだろう、と思わされました。

大人も、そんな風にえいっと何かを決められるレバーがほしい。

 

 

あとは、宇宙クイズの子も印象深いです。

その子は四年生の女の子で、普段からけっこう本も好きで図書館にもよく来てくれている子でした。

 

彼女は給食を食べるのにわりと時間がかかる方で、見ていると、たいていごちそうさまの時間になってもまだ食べ終わっていません。

その子のそばで食べるということになった時、彼女が急に、

「先生、宇宙に関するクイズ出して」

と言ってきました。

 

なんでもその時彼女の中にある宇宙への興味関心が爆発している時期だったらしく、宇宙関係の本を色々読んでいたのだそうです。

そこで、運が良かったのか何なのか、こちらもなかなかなの宇宙好きで、一時期は宇宙に関する本をあれやこれやと買って読んでいた時期があったので、けっこうテンションが上がって「じゃあどうしよっかな~」などと、クイズを考えだしてあげていました。

 

「太陽の光が地球に届くまでにどれくらいの時間がかかるでしょう」

「土星の輪は何でできているでしょう」

「宇宙はこれからどうなっていく可能性があるでしょう」

 

わりと、小学生に出すには難しい問題なのでは、と自分でも思いながら出してみると、そこはさすが、宇宙ブームの真っただ中にいる子だけあって、ちゃんと知っていたりするのでした。

 

「先生にも出してよ」

と言うと、

「やだ、わたしが答えたいから出して」

と言われてしまいました。

まあ、勉強したことや覚えていることを披露したいという気もちもあるのでしょう。

 

それで、夢中になってクイズを出してあげていたら、「手を止めてください」という声が。

気づいたらもうごちそうさまの時間でした。

 

私は宇宙ガールと目を合わせました。

ふたりとも、やっばいという目。

彼女のお皿の上を見ると、まだどのお皿にもけっこうな量が残っていました。

クイズに答えたり、喋っていたりしたので当然です。

私は、急いで食べるくせがついていたこともあって、ぎりぎり間に合ったくらいなんですが、子どもが給食を食べる時間を阻害してしまうなんて。

 

私は反省しました。

宇宙クイズを出してあげるのは楽しいのですが、これではいけません。

 

そこで、次の日給食に向かいながら、対策を考えました。

「クイズ出して」

食べ始めてすぐに、彼女がそう言ってきたので、

「じゃあ、ひと皿食べ終わったら、クイズをひとつ出してあげる」

と私は言いました。

 

彼女は「ってことは……」と言って、お皿の数を数え始めました。

ごはんとお汁、おかずの三皿あります。

「わかった」

彼女はそう言うと、猛然とかきたま汁を飲み始めました。

昼飯抜きで仕事をした作業員が、夕方、吉野家に行って牛丼をかきこんでいるかのような勢いで、あっという間に、お汁の器が空になりました。

 

「はい、クイズ出して」

「あ、うん。じゃあ、そうだなあ……」

そんなに早く食べ終わると思っていたので、何を出そうか考えていなかったくらいです。

 

その後も彼女はいつもよりかなり早いペースでごはんやおかずを食べ、いつもごちそうさまに間に合わないのに、その日だけはきっちり食べ終わることができました。

「明日もクイズ出して」

「ひと皿食べたらひとつね」

 

そのクラスは机を班ごとに島にしていたんですが、彼女にクイズを出すと、きいていたほかの児童も反応してくれました。

「三択にするからどれか選んで」

と言ったら、その島にいるみんなが参加してくれます。

 

わりと、大盛り上がりになってしまって、なんだか理科の先生にでもなったような気分でした。

宇宙に関するうんちくを披露していただけなのですがね。

しかも、気まずいことにそのクラスの担任の先生は、理科の専科をやっていたような先生だったのです。

なんとなく、ごめんなさいと思いつつ、でも、楽しんでいました。

 

その月が終わるまで、宇宙クイズを出していましたが、彼女の食べるスピードはずっと落ちませんでした。

一問でも多く答えたい。

そんな想いが、それまでの給食を食べきることができない彼女を変えたのかもしれません。

よっぽど、宇宙に関するクイズが楽しかったのでしょう。

 

彼女は知らないかもしれませんが、出しているこちらもとても楽しかったのです。

ほどよいレベルの問題を出そうと、給食に向かう前に図書館にある宇宙の本を引っぱりだしてきたりして、その日の三問を準備したり。

また、宇宙の本を新しく入れた時には、準備ができ次第、まずはその子に見せてみました。

すると、目を輝かせて「借りる」と言いました。

司書をやっていて、うれしい瞬間のひとつです。

 

やがて、一ヵ月はあっという間に過ぎていきました。

 

月がかわって、違うクラスに行かなければいけないことに、あんなに寂しさを覚えたことはほかにありません。

 

 

なんだか思い出していたら懐かしく寂しくなってきました。

 

転任してしまったので、もうしばらく会っていないのですが、もしもまたいつかその子に会えたら、あの時の宇宙クイズの時間、とても楽しかったよありがとうと伝えたいと思います。

 

給食の、幸せな時間の話でした。

読んでいただきありがとうございました。

 

それではまた。