『耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ』

- 作者: ナンシーチャーニン,ジェズツヤ,Nancy Churnin,Jez Tuya,斉藤洋
- 出版社/メーカー: 光村教育図書
- 発売日: 2016/11/01
- メディア: 大型本
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『耳の聞こえないメジャーリーガー ウィリアム・ホイ』
ナンシー・チャーニン:文 ジェズ・ツヤ:絵 斉藤洋:訳
あらすじ
学校代表の野球選手になりたいウィリアムは、毎日一生懸命練習していました。
学校というのは、オハイオ州立ろう学校のことです。
テストでは、投げるのも打つのもうまくいきましたが、チームのキャプテンには「背が小さすぎるからなあ……」と言われてしまいます。
学校を卒業すると、ウィリアムはくつの修理店ではたらき始めました。
そんなある日、店先の野原でやっている野球をながめていると、ボールがころがってきました。
ウィリアムが投げ返したボールに、男の人は、
「なかなかやるじゃないか、きみ。いっしょにやらないか?」
と言いました。
けれども、ウィリアムにはその声がきこえません。
でも、男の人が走ってきて、もう一度同じことを言いました。
こんどは、口の動きで、なにを言っているのかわかりました。
投げてよし、打ってよしのウィリアムに、みんなおどろきました。
「うちのチームに入らないか?」
とうとう、チャンスが回ってきたのです!
それでも当時1880年代はまだ手話ができる人はおとんどおらず、野球の世界でもそれは同じことでした。
ウィリアムは、チームのマネージャーに給料を低くされたり、べつのチームでも、ウィリアムにわからないように口を手でおおって、ウィリアムの悪口を言う選手もいました。
そんなある日のことです。
ウィリアムは三球続けてボールになったと思ったのですが、それが実はすべてストライクでした。
審判の声が聞こえないので、ウィリアムはずっとバッターボックスに立っていましたが、しばらくすると、ピッチャーが笑いだし、観客も笑いだし……
泣きたいのをぐっとこらえ、ウィリアムはバッターボックスをあとにしました。
しかしこのことをきっかけに、ウィリアムはあることを思いついたのです。
そのあることとは……。
感想
現在では当たり前のように行われている、野球の主審のあのジェスチャー。
それがどのような経緯から出来、浸透していったのかがわかる絵本です。
耳が聞こえない中でも、野球を愛し、日々練習を続けていたウィリアムですが、そこには様々な壁が立ちはだかります。
でも、めげずに、目の前に現れたチャンスをきっちりつかんだウィリアムの生き方に憧れるとともに、心の底から賛同します。
逆境をはねのける、ということができる人は、それなりに準備や鍛練が必要なのでしょう。
そして、そこに全力投球する熱意も。
差別的な人間が多い中でも、ウィリアムの提案に素直に耳を傾け、それをよしとする審判がいてくれた、というところが、ターニングポイントのような気がしました。
そこで、ウィリアムの提案に耳をかさなければ、野球の審判のジェスチャーというのは、現在のものとは全然違ったものになっていたかもしれません。
野球をやっている子どもにはもちろん、障がいというものを見つめ直してもらうきっかけにもおすすめしたい一冊です。