『くいしんぼうのあおむしくん』
『くいしんぼうのあおむしくん』
槇ひろし:作 前川欣三:画
福音館書店
あらすじ
ある日、まさおのぼうしに穴が空いていました。
そこには、そらと同じ色のあおむしがいて、ぼうしをたべながらどんどん大きくなっていっているのでした。
「おまえはぼうしをたべるわるいむしだろう」
「ごめんね、ぼく……くいしんぼうのあおむしなの」
あおむしは、まさおのおやつのパンもチョコレートも、紙くずまでたべて、まだ、「おなかがすいたよう!」とうるさいのでした。
それから三日目のこと。
まさおがようちえんから帰ると、絵本もおもちゃもクレヨンもみんな、あおむしくんがたべてしまっていたのです。
パパとママは「そんなむし、すててきなさい」とおこりました。
「ごめんなさい。おなかがすいて、しにそうだったの」
あおむしくんの目からなみだがおちたのを見て、まさおは、
「ぼくがちゃんとそだてるから、あおむしくんをすてないで!」
と言いました。
「いらないごみ、なんでもかんでもだしてくださあい」
あおむしくんをつれながら、まさおは毎日町をあるきました。
まちはどんどんきれいになり、あおむしくんはどんどん大きくなりました。
ごみがなくなるとあおむしくんは、
「おなかがすいたよう」とだだをこねはじめました。
つぎの日の朝、まさおが目を覚ますと、そこはなにもない荒野でした。
「あのねえ、ぼくがみんなたべちゃったの」
パパもママも、あおむしくんにたべられていました。
まさおは泣きながらおこりました。
あおむしくんも、謝りながら泣きました。
それから、ふたりはたびにでることにしました……。
感想
タイトルだけ見て、『はらぺこあおむし』的なかわいい絵本かなと思ってしまいましたが、ぜんぜん違いました。
なかなかに衝撃的な展開です。
なんでも食べるあおむしくんは、もう食べるものがないとなったとたんに、町も人もばくばくと食べてしまうのです。
主人公のまさおのパパとママも、序盤であっさりと。
でも、「ぼくがちゃんとそだてるから」と言ったまさお。
あおむしくんを見捨てないで、ちゃんと、どこまでも付いていきます。
その後もあおむしくんはいろんなものを食べ、食べるものがなくなるまで食べ、その後はもう絶望的な光景が広がるんですが、そこからのどんでん返し(と言っていいのかどうか)があざやかでした。
荒野となった大地のシーンなんて、核戦争の起きた後の世界みたいな描かれ方で、ほとんど、『The End of the World』那須正幹:作 を思い起こされるような。
決してハッピーエンドとは言い難い読後感なのですが、それでも、最後の温かいページにはたしかに、よかった、と思わせる何かがあります。
子どもたちはこれを読んでどう思うのかものすごく気になります。
読んだその日から、この世界のことも疑い始めてしまう、そんな一冊でした。
それではまた。