百人一首を第一首から学ぶ(5・6)
五首目
奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき
猿丸太夫
訳
山の奥深く、一面の紅葉を踏み分けながら鹿の鳴き声を聞くと、秋のもの悲しさが身にしみます。
猿丸太夫は、三十六歌仙のひとりですが、ほとんど記録の残っていない伝説の歌人。
解説
古来より、飽きは牡鹿が牝鹿を探して鳴く季節とされていました。
「紅葉踏み分け」の主語を、鹿、作者、一般の人とする説がありますが、いずれにせよ、深い山の中に響く寂しげな鹿の声を感じられます。
もともとは、『万葉集』に詠み人知らずで載っていた歌。
猿丸太夫の作という証拠は実はないようです。
六首目
かささぎの 渡せる橋に 置く霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける
中納言家持
訳
かささぎが、天の川にかけるといわれている橋。その橋が、霜が降りたようにまっ白になっているのを見ると、すっかり夜もふけたものだと感じるなあ。
中納言家持、本名は大伴家持。
三十六歌仙のひとり。
取りまとめに関わった『万葉集』には、最も多い473首もの歌がのっています。
解説
「かささぎの渡せる橋」は七夕伝説に由来しています。
中国では、七夕の夜にだけ、牽牛と織女を逢わせるためにカササギが羽を並べ、天の川を渡す白い橋を作ってくれるという言い伝えがあるのです。
詠み人の家持は、このカササギの橋の城郷、橋に霜が降りてまっ白にまった様子を並べています。
が、どこの橋に霜が降りたのかで、解釈が分かれています。
ひとつ目が、霜の白さを天の川に散らばった星に見立てたものとする説です。
これは、中国の詩人・張継が『唐詩選』の中で「月落ち烏啼いて、霜天に満つ」と書いた一節を元にしていると言います。
ふたつ目は、冬の宿直の晩、平城京御殿の中にあるカササギ橋に霜が降りているのを見つけて、その様子を詠ったものとする説。
冬の澄んだ空気の中で星は確かに白くきらめき、霜が降りてまっ白になった橋もまた趣深いでしょう。
どちらの解釈をとるにしろ、冬のきんとした冷たくも清涼感のある空気が伝わってきます。
なお、自身の歌を473首『万葉集』に収録した家持ですが、この歌は、その中には含まれていないようです。