百人一首を第一首から学ぶ(9・10)
九首目
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに
小野小町
訳
桜の花が色あせてしまたように、私の美しさも衰えてしまった。
雨を眺めてもの思いに耽るうちに。
小野小町は生没年不詳、経歴不詳。
小野小町像とされる絵も現存しておらず、容姿の件についても真偽は不明。
解説
小野小町といえば、絶世の美女として有名な人物です。
しかし、その生涯は謎に包まれています。
出自も出生地もはっきりせず、都でどんな地位にあったのかも不明です。
後宮に働く女性に多かった「町」という名がつくことから、後宮勤めだったと推測されています。
その一方で、遺した歌は大変高く評価されました。
『古今和歌集』の序文で、紀貫之は「万葉集の頃の清純さを保ちながら、王朝浪漫性を漂わせている」と絶賛しています。
この歌も、花と人生をかけた、叙情的な作品です。
古典で花といえば桜です。
「いたづらに」は「無駄に」で、「世」は「世間」の意味です。
「ふる」は「降る」と「経る」の掛詞で、「ながめ」は「長雨」と「眺め」が掛かっています。
長雨によって色を落とす桜の花を眺めながら、年経て容姿の衰えた自分を投影しているのです。
晩年の小野小町は諸国を放浪したという伝説も残っています。
また、小野小町が美人であったことをしめす伝説「百夜通い」というものがあります。
深草少将という若者が小町に恋をしますが、小町は「100日間、毎晩、わたしのところへ通うことができたらお逢いしましょう」と返事をします。
小町のもとへ通い続ける少将でしたが、99日目の雪の晩にたおれて亡くなってしまいました。
そんな女性だからこそ、老いていくことへのかなしみが濃く、この歌が生まれたというのもよくわかるような気がします。
十首目
これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも あふ坂の関
蝉丸
訳
これが、今日から出ていく人も帰ってくる人も、知っている人も知らない人も出会っては別れるという逢坂の関なのか。
蝉丸は生没年不詳。
盲目で琵琶の名手と言われるがその詳細は不明。
解説
「逢坂の関」は山城国(現在の京都府の一部)と近江国(現在の滋賀県)のあいだにもうけられた関所。
「逢坂」の「逢」には「(人に)会う」の意味もかけられています。
京の玄関口で、様々な人が行き来する関所の賑わいを描きつつ、出会ったものはかならず別れる運命にあるという、人生の無常・仏教の考え方があらわれています。
また、「行くも帰るも」や「知るも知らぬも」といった対比表現が多用され、非常にリズミカルな和歌です。