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【百人一首】を第一首から学ぶ(43・44)

百人一首を第一首から学ぶ(43・44)

 

43首目

逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり

権中納言敦忠

 

あなたと会ってからの恋しい気もちに比べれば、会う前の悩みなどないに等しいものだった。

 

 

解説

この歌は「後朝の歌」というもので、好きな女性とはじめていっしょにすごしたその翌朝におくったものです。

「きぬぎぬ」とは「衣衣」から来ているとされ、一夜を過ごした男女は別れをおしみ、互いの着物を交換したそうです。

 

「逢ひ見て」という言葉には、「会って顔を見て」という意味のほかに「逢瀬を遂げる」、つまり男女関係を結ぶという意味があります。

 

「後」というのは男女の関係になった後という意味合いなので、この歌は恋人と結ばれてからの心境を詠んだものだと理解できます。

 

これと対比するのが「昔」という表現です。

単に昔の出来事を示しているのではなく、恋人と結ばれる以前のことを指しているのです。

 

当時の男女は逢瀬を遂げるまで、お互い顔も知らないのが当然でした。

男も女も、見たことのない相手に想いを巡らせながら、手紙のやり取りで一喜一憂していました。

「会えないこと」の苦しみの大きさが伝わってきます。

実際に結ばれるということが、いかにそのひとの世界を変えてしまうことかという歌です。

 

 

ちなみに、百人一首のもととされる『百人秀歌』は2首1組の構成です。

この歌は、敦忠に恋した右近の歌とペア。

 

権中納言敦忠は906年生~943年没。

藤原時平の息子。

歌の才能にあふれる美男子で、琵琶の名手としても知られていました。

三十六歌仙のひとり。

父の藤原時平は、菅家を九州へ追放したことによるたたりで若くして死亡。

敦忠も38歳の若さで病死しました。

 

 

 

44首目

逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし

中納言朝忠

 

あなたに会うことがなければ、あなたのつれない態度も、恋する辛さも恨んだりしなかっただろうに。

 

 

解説

肉体関係を結んだことで、お互いの気持ちが変わるというのは、珍しい話ではありません。

その後、相手が冷たくなることもあれば、より情熱的になることも。

 

「人をも身をも 恨みざらまし」という表現からは、作者がこうした心変わりに苦悩している様子がうかがえます。

ひとつは「人をも」つまり「相手の女性」、そしてもうひとつは「身をも」、つまり「自分自身」の変化に苦しんでいるのです。

 

藤原定家の考え方では、この歌における「逢ふ」とは、男女が愛し合うことをあらわしています。

つまり、ただ出会ったことではなく、一度想いが通じ合ったにも関わらず、女性に冷たくされ、逢えなくなってしまった苦しみが詠まれているのです。

 

『拾遺集』によればこの歌で歌合に参戦し、三十六歌仙のひとり、藤原元真を負かせました。

 

 

中納言朝忠は910年生~966年没。

和歌や漢学に優れ、笙という和楽器の名手でもありました。

眠れないほどおもしろい百人一首: あの歌に“驚きのドラマ”あり! (王様文庫)

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