百人一首を第一首から学ぶ(69・70)
69首目
嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 龍田の川の 錦なりけり
能因法師
訳
嵐が吹き散らかした三室山の紅葉は、麓を流れる龍田川の川面を彩って、豪華絢爛な錦のようであったよ。
解説
この歌には、「三室の山」と「龍田の川」という、ふたつの歌枕が詠まれています。
「三室の山」は奈良県斑鳩の山で、紅葉の名所です。
その山に嵐が吹いて紅葉が舞い、「龍田の川」に落ちてきます。
川面に浮かぶ紅葉は「錦」、すなわち絢爛豪華な織物のようだった、と感動を詠った歌です。
ちなみにふたつの場所は離れているのですが、あえてふたつの名所を結びつけることで、華やかな情景を描き出したといわれます。
能因法師は988年生~1050年没。
藤原長能に師事し、各地を旅して歌を詠みました。
1013年に出家し、摂津国に移住。
独自の歌論をまとめた『能因歌枕』があります。
70首目
寂しさに 宿を立出でて ながむれば いづこも同じ 秋の夕暮れ
良暹法師
訳
あまりにも寂しさが募るので、庵から出て周囲を見渡してみたが、どこも同じ寂しい秋の夕暮れが広がっていた
解説
比叡山で仲間の僧侶とともに修行に励んでいたころからは一転し、晩年は京都の大原という静かな土地で一人暮らしていた良暹。
詳しい経歴については謎が多い作者ですが、そんな隠棲生活における人恋しさ、寂しさを詠んだものだと言われています。
「秋の夕暮れ」で体言止めにするのは、百人一首の撰者である藤原定家も好きだった手法です。
「宿」とは、一般的には俗世を捨てた人などが一人で住むような、粗末でわびしい家を指すことが多いです。
良暹法師は生没年不詳。
詳しい経歴については不明。