百人一首を第一首から学ぶ(79・80)
79首目
秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ
左京大夫安顕輔
訳
秋風によって長く引いた雲と雲の切れ間から、こぼれ出る月の光は、なんと清く澄み切って明るいことでしょう。
解説
崇徳院にささげたとされる百首歌(いくつかの決められた題にそって詠んだ歌を、百首合わせたもの)の中の一首です。
この歌にある「かげ」は光を意味します。
同じ言葉でも、昔は現代と違う意味で使われていた典型です。
「さやけさ」は清らかですっきりした様子を示す名刺で、月光が澄んで明るい様子を表現しています。
左京大夫顕輔は1090年生~1155年没。
白河上皇の院近臣として活躍しました。
左京大夫というのは、平安京の朱雀大路を中心に東側を取り締まる長官です。
天皇の住まいから見て右が右京、左が左京です。
80首目
ながからむ 心も知らず 黒髪の みだれてけさは ものをこそ思へ
待賢門院堀河
訳
末永く私のことを愛してくださるという、あなたの心が確かなものかが分からず、会って別れた今朝の寝乱れた黒髪のように、私の心も乱れて、もの思いに沈んでいます。
解説
この歌は、後朝の文をもらった女性が、返歌として贈ったという設定です。
「ながからむ」は末永く変わらないだろうという意味で、「長い」は「黒髪」「乱れて」の縁語です。
相手から末永くあなたを想い続けると文が送られてきたけれど、それが本当かはかりかねて心乱れている、のです。
恋人への不安を表した繊細な歌であるとともに、「寝乱れた黒髪」のようにエロティックな表現まで盛り込んで、相手を煽る一面もあります。
平安時代の女性ならではの駆け引きだったのかもしれません。
作者は崇徳院の生母・待賢門院に仕え、この一首は崇徳院の命で作成した『久安百首』の一つでした。
この時代、黒くつややかで長い髪ほどもてはやされたため、貴族の多くの女性が身長よりも長く髪を伸ばしていました。
この作者も髪を長くのばしており、その長い髪に、自分の気持ちを重ねて詠んだのでしょう。
一夜明けて、乱れてしまった髪のように、将来のことを考えると心が乱れてしまった、と。
待賢門院堀河は生没年不詳。
崇徳院が天皇の位を退いたのちは、待賢門院とともに出家して、仁和寺に入りました。