こんにちは。
小学生(高学年)に本を読んでほしいorプレゼントしたいけれど、児童書にはあまり詳しくないから、どれをおすすめしたり、プレゼントすればいいかわからない、という方、
あるいは、
単純に面白い児童書はないかなあ?
と探していらっしゃる方におすすめの児童書を紹介したいと思います。
学校司書が選ぶ、高学年におすすめの小説27選
『二分間の冒険』
岡田淳
偕成社
ふしぎな黒猫に誘われて、学校の校庭から、子どもたちだけが住む世界に迷いこんでしまった悟。やがて、悟は仲間とともに、この世界を支配している竜と闘うことになります。〈一番確かなもの〉を探して、子どもたちがくり広げる壮大なドラマ。
岡田淳さんの本は、後にも出てきますが、どの本も本当に面白くて、長い本を読むのは苦手という子にぜひ知ってほしい作家です。
この作品は、タイトルにもあるように二分間の間に起こる物語です。
でも、ページ数は200ページ以上。
どういうことなんだろう? と思って読み始めると、あれよあれよという間になぞの世界に迷い込んでしまうのです。
竜との「なぞなぞ」対決が楽しいです。
児童書といえども、大人も楽しめるので、お子さんの後か前に読んで、一緒にこの世界に浸ってもらえると、より楽しいかと思います。
また、作品の大きなテーマである、「一番確かなもの」とは何か? という問いに、主人公と一緒に考えながら読むことができます。
なんとなく答えがわかっていても、最後にはきっと感動できますよ。
『きのう、火星に行った。』
笹生陽子
講談社
みんな大切なことを忘れてしまう
「熱い」って気持ちいい。クールなおれが変わっていく、こんなはずじゃなかったのに――。
6年3組、山口拓馬。友だちはいらない、ヤル気もない。クールにきめていた。ところが突然、病気がちの弟・健児が7年ぶりに療養先から戻ってきて、生活が一変する。家ではハチャメチャな弟のペースに巻き込まれ、学校では体育大会のハードル選手にでくちゃんと選ばれる……。少年たちの成長に感動必至。
冒頭から、主人公は窓際の一番後ろの席で、いねむりをしています。
クールといえば聞こえはいいですが、さめきっていて、とにかくやる気がありません。
そんな主人公が、いねむりをしている間に勝手に体育大会のハードル選手に選ばれ、しかたなしに練習を始めるうちに、少しずつ、心境に変化が……
と書くと、ありがちな成長物語に聞こえてしまいそうですが、読んでいただければ、この物語が唯一であることがわかると思います。
本気を出すのはかっこわるい、頑張るのはダサい、といった気持ちにながれていってしまいそうな子どもにぜひ読んでほしい一冊です。
また、大人が読んでも十分楽しめ、考えさせられる物語でもあります。
子どもといっしょに読むのもおすすめです。
『となりの火星人』
工藤純子
講談社
他人とのコミュニケーションが不得手なかえで。勉強はできないけれど、自然とまわりに人を集めてしまう湊。湊のせいで私立中学の受験に失敗したと思いこんでいる兄の聡。自分の中に「化けもの」が住んでいるからキレやすいんだと思っている和樹。マイナスの感情が心を占めると息ができなくなって叫び声をあげてしまう美咲。みんな、「困った子」なんかじゃない。「困っている子ども」なんだ。
連作短編集という形で、様々な困難を秘めている子どもたちが登場します。
困難を秘めているといっても、子どもは(大人もそうでしょうが)たいてい何かしらの困難を抱えながら生きています。
その中でも、こだわりが強く、ほかの子どもとの関わり方について「困っている」子どもが、この作品では多くみられます。
最近ではアスペルガーを筆頭に、子どもたちの困難にいろいろと名前がつけられるようになりました。
が、名前があっても、困っている内容はそれぞれで、一様ではありません。
この『となりの火星人』を読んで、「他人の心の中」というものに、少しでも目が向けられれば、それが思いやりの種になるかもしれない。
そんな風に思わせてくれた作品です。
大人にも読んでほしい一冊。
イチオシです。
『魔女になりたい!』
ルースサイムズ
ポプラ社
児童養護施設で暮らすベラ・ドンナは魔女になりたい女の子。ある日、里親になりたいと、リリスという女の人がやってきますが…。
はたこうしろうさんのイラストに惹かれて読んだ本でしたが、ストーリーも非常に面白かったです。
魔女になりたい孤児が主人公で、なかなか里親になりたいという人が現れない中、リリスさんという女性が現れて……
その先はネタバレになるのであまり多くのことは言えませんが、リリスさんと主人公の関係性が好きです。
魔女ものが好きな子だけでなく、友情物語が好きな子にもおすすめしたい一冊です。
『9月0日 大冒険』
さとうまきこ
偕成社
夏休みにどこへも遊びにいけなかった純たち3人は、ふしぎな日めくりカレンダーに誘われて、恐竜の世界へ冒険にでかけた。
恐竜。
とにかく恐竜好きな子どもはこれを読むべし、という一冊です。
夏休みを楽しく過ごせなかった3人がふしぎな世界に迷い込むファンタジーで、なんとなく、昔のドラえもんを思い出しました。
3人の子どもがそれぞれに個性的で、衝突もありますが、読後感は素晴らしいの一言です。
ちょっとした謎の要素もあって、ああそうだったんだ! という楽しさも得られます。
『穴 HOLES』
ルイス・サッカー
講談社
全米図書賞、ニューベリー賞他受賞の傑作。無実の罪で砂漠の矯正施設に入れられた少年スタンリー。大地に穴を掘るだけの苦行の日々から脱出し、不運を幸運に逆転する冒険へと踏み出す。友情と感動の物語!
個人的に、小説観といいますか、何か、それまで持っていた小説に対するイメージをがらりと変えられたような一冊です。
小学生でも読めると思いますが、伏線があちこちにちりばめられており、それが少しずつ回収されていく楽しさを感じられるようになってから読むのをおすすめしたい作品でもあります。
毎日毎日、一人一つずつ穴を掘る少年たち。
灼熱の太陽。
150年前の出来事が今に繋がって……
物語の醍醐味のすべてがつまったような一冊です。
伊坂幸太郎の小説が好きな大人にもぜひ読んでいただきたいです。
『ゲキトツ!』
川島誠
BL出版
超能力を手に入れた。でも、コレって、あり?ぼくは、ふつうのフォワードだった。むしろ、得点力のない。そう、あの試合のあの瞬間までは。
トラウマ児童文学として有名な『電話がなっている』の作者である川島誠の、スポーツ小説であり、SFであり、成長物語でもある作品です。
川島誠と言えば少年と性というイメージが強いかもしれませんが、この作品では性の描写はほとんどありません。
足も速く、実力もあるんだけど、プレッシャーに弱く、いつも試合でその実力を発揮できない少年が主人公です。
あるとき、試合中にゴールポストに頭をぶつけたことにより、彼は超能力を手に入れます。
その超能力とは、他人の心の声が聞こえるというもの。
相手チームの選手の心の声が聞こえると、主人公のプレーは激変。
試合で大活躍し、さらには、株の情報を聞いてそれをお父さんに話し……
でも、良いことばかりじゃなくって、聞きたくない声も聞こえてきてしまいます。
先生の声、気になっている女の子の声、そしてお母さんの「お父さんを毒殺……」といった物騒な声まで。
軽妙で読みやすい文体なので、普段小説を読むのが苦手という子にもおすすめです。
サッカーをやっている子には特に。
『飛ぶ教室』
エーリッヒケストナー
講談社
子どもだって、ときにはずいぶん悲しく、不幸なことだってあるのだ…。20世紀初頭。孤独なジョーニー、頭の切れるマルチン、腕っぷしの強いマチアス、弱虫なウリー、風変わりなゼバスチャン…個性溢れる五人の生徒たちが、寮生活の中で心の成長を遂げる。
今さらおすすめするまでもない名作でしょうが。
私はこの作品を大人になってから、初めて読みました。
様々な出版社で異なる翻訳をされているので、読み比べてみるのも面白いと思います。
私は、講談社文庫のものを最初に読んだので「泣くこと厳禁。泣くこと厳禁」という翻訳でないとしっくりこなくなってしまいました。
ケストナーの物語は、子どもたちをやさしいまなざしで見つめるような温かさがあります。
少年少女のうちに一度読んでみてほしい一冊です。
『よりみち3人修学旅行』
市川朔久子
講談社
小学6年の夏休みに転校した大崎天馬は、周囲に怒っている。
前の学校の卒業アルバムはもらえないし、今の学校になんの思い出もない、親の転勤によって理不尽な転校をさせられたからだ。卒業式が終わり、ひょんなことから、学校にほとんど来なかった風知、王子スマイルで周囲を魅惑する柊と、ヘンな修学旅行に行くことになる。
別れて住む風知の父から出された課題をクリアするため、卒業アルバム片手に旅することになった、3人。
走ったり、ケンカしたり、テレビに出たり。小学生でもなく、中学生でもない時を疾走する、大冒険。
それぞれの事情により、修学旅行に行くことができなかった3人のちょっぴり変わった卒業旅行の話です。
目的地に着くまでの間に、様々なトラブルや事件があり、それを3人で乗り越えていく中で、それぞれの個性や背景が見えてきます。
単純なようで複雑な子どもの心のうちを覗きみたような気持ちになりました。
『ぼくがスカートをはく日』
エイミポロンスキー
学研プラス
今度、学校で演劇のオーディションが開催される。ぼくは、女神の役をやりたい。「男子が女子の役をやるんだって!」と言われるだろう。けれど、ぼくは自由に自分らしく生きたい。本物の女の子になりたい。――12歳のグレイソンは、一歩、進みはじめる。
最近増えてきている、LGBTものの海外児童文学作品です。
登場人物の中の一人がLGBTで、といった作品はわりとありますが、主人公がそうで、一人称でここまで赤裸々に独白をしている児童書というのは初めてでした。
演劇のオーディションで、女神の役を希望する主人公。
その選択によって、それまで築いてきたいろいろなものにひびが入ってしまい……
志村貴子の『放浪息子』という漫画があるのですが、
この『ぼくがスカートをはく日』の読み味はそれに近いものを感じました。
もちろん、海外作品ですし、内容は全然違うのですが、全体に漂う雰囲気といいますか。
主人公の選択によって、その後の日々がどうなっていくのか、ぜひ、読んでお確かめください。
『大坂オナラ草子』
谷口雅美
講談社
平太は大阪で暮らす小学五年生。特技は絵を描くことだが、転校前に描いた似顔絵で友達を傷つけ、もう人は描かないと決めていた。
ある日、平太はおじいちゃんの古文書を見ているうちに、江戸時代へタイムスリップし、同い年の少女・お篤と出会う。泥棒の疑いをかけられたお篤を救うために平太が描いた人相書きが評判になるが、食べすぎたおいものせいでオナラをしたとたん、現代に戻ってしまった。その後も平太は時空を行き来し、現代では学級新聞コンテストへの挑戦が決まり、江戸時代ではかわら版屋の絵師として雇われて、「象さま行列」の絵を描くことになる。
過去との出会いにより、現在と未来の自分達についても考えるようになる平太。古文書、瓦版と新聞、人相書きと似顔絵・・・・・・
今も昔も「書き記すこと」によって時間や距離を超えて繋がっていく人と人との絆を描く、人情溢れるエンターテイメント小説。
江戸時代にタイムスリップして、そこから現代に戻る方法がオナラという、なんともにおいそうな一冊です。
冗談はさておき、講談社児童文学新人賞佳作を受賞したこの作品。
江戸時代ときくとちょっとしりごみしてしまいそうな人も多そうですが、全然難しい作品ではありません。
現代の子どもでもすらすら読めますし、現在と過去を行き来するストーリーは飽きるところなく読み終えられると思います。
絵を描く、ということが一つ主人公にとって大きなテーマであり、悩みの種であり、活躍の手段でもあります。
絵を描くのが好きな子が読んだらどんな風に感じるのか、ちょっと気になります。
『びりっかすの神様』
岡田淳
偕成社
転校生の始は、転入したクラスで背中につばさのある男を目撃する。その男はビリの人にだけ見える神さまだった。やがて、子どもたちは競争や勝ち負けについて考えはじめる。一番になるより大切なことを描いた物語。
父親が過労死してしまった男の子が主人公です。
なかなかショッキングな書き出しですが、物語はすぐに、転入先のクラスで出会った背中につばさのある男を中心に動き出します。
ビリになると見えるこの神さま、テストで0点をとったり、給食を食べるのが一番遅くなったり、学校には実にいろんなビリがあります。
そして、見えるようになるだけじゃなく、一緒にビリになった子とびりっかすの神さまと、テレパシーでやりとりができるようになります。
当然、そんな面白いことにとびつかないわけがありません。
子どもたちはビリになる楽しさを覚え、テストもわざと悪い点数をとるようになるのですが、そのことを不審に思った担任の先生は……
一番になる、とか、ビリっけつ、とか、そういうのって、学校ではよくある話ですよね。
でも、そういうことだけが大切なんじゃない、というメッセージが、この作品からはひしひしと伝わってきます。
びりっかすの神さまの正体と、その最後が気になる方はぜひお読みください。
『バッテリー』
あさのあつこ
角川書店
中学入学を目前に控えた春休み、父の転勤で岡山の県境の街に引っ越してきた巧。ピッチャーとしての自分の才能を信じ、ストイックなまでにセルフトレーニングに励む巧の前に同級生の豪が現れ、バッテリーを組むが…。
これも、今さら紹介するまでもない作品ですね。
原田巧という天才ピッチャーと、そのボールを唯一受け止めることのできる同級生の豪の話から始まります。
野球を好きな子って、あまり本は読まないという子が多い気がします(私の周りだけかもしれませんが)。
バッテリーはそういった野球少年少女に本を読むきっかけにおすすめです。
若干厚めなのと、文章がきちっとしているので、やっぱり高学年向けかなとは思いますが、興味のあることなら読める、ということもあるかもしれませんね。
『卵と小麦粉それからマドレーヌ』
石井睦美
ポプラ社
中学に入学したばかりの菜穂は、「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」と話しかけてきた亜矢と仲良くなる。彼女と一緒に図書室に通いつめるなどして学校生活を送る菜穂。しかし、13歳の誕生日にママが「爆弾発言」をしたことで、状況は一変した。ママとは強い絆で結ばれていると思ってたのに…。
中学一年生の女の子が主人公のこの作品。
多感な時期の主人公の日常は、ママからの衝撃的な「フランスに留学したい」という発言によって、ぼろぼろとくずれていきます。
でも、そんな中、支えとなるのはやはり友だちです(父親じゃないというのがいいですね)。
ちょっと大人びた友だちの亜矢と話しているうちに、自分の悩みや成長するということに対する気持ちが少しずつ変化し……
いろいろな立場における自立が描かれています。
日常における小さな心の変化が丁寧に書かれていて、帯にも書かれていましたが、読んだ後前向きになれる一冊です。
『おれからもうひとりのぼくへ』
相川郁恵
岩崎書店
ある日、自転車でおれは自分とよく似た男の子とぶつかった。
その時から、何もかもがちょっとずつ違うんだ。家族も友だちも、学校も…。
元の世界の親友たちのおかげで、ようやくパラレルワールドに来てしまったことがわかった。
新しい世界での生活も案外悪くないが、やはりもどりたい。
はたして、無事にもどることはできるのか!?
がっつり友情のお話です。
普段当たり前で、何とも思わない友だちが、全然違うキャラになってしまってはじめて、その友だちの良さがわかる。
そんな何気ない時間の大切さも一緒に感じられる良作です。
短いので、さらっと読めます。
中学年からおすすめできる一冊です。
『ぼくらのサイテーの夏』
笹生陽子
講談社
一学期の終業式の日、ぼくは謎の同級生、栗田に「階段落ち」の勝負で負けた。ケガをしたうえ、夏休みのプール掃除の罰まで下された。よりによって、あの栗田とふたりきりで…。サイテーの夏がはじまった。
『きのう、火星に行った。』を紹介した笹生陽子さんのデビュー作です。
階段落ち、という危険な遊びをしていた罰として、プール掃除をさせられている間に、気の合わなそうな栗田という男子と心を通わせていくお話です。
子どもの世界にもいろいろあって、また、家庭によってもいろんな事情があって、笹生さんの描くリアルな子どもたちが存分に楽しめる一冊です。
道徳的な話も出てはくるんですが、それがあんまり押しつけがましくなくて、個人的にはそれが大きなポイントです。
子どもの本のなかには、時に道徳や勧善懲悪的な要素がはっきりと、そしていやらしい感じで書かれているものもありますよね。
そういう感覚ではなく、物語として楽しみながら、自然と教えられるものもあるというのが、この本を読むとよくわかります。
『わたしのチョコレートフレンズ』
嘉成晴香
朝日学生新聞社
あなたにとって本当の友達って?――
小学5年生の凜太と隣に越してきた万緒。万緒は友情をテーマに書き始めた物語を、
理想的な親友同士に見えるクラスの2人をモデルに変更して進める。
凛太はおさななじみの直政が、同じスイミングスクールに入ってどんどん上達していく姿に、
距離を感じ始める。次第にモデルの2人の仲があやしくなり、
万緒の書く物語がクラスの出来事とリンクし始める…!
ミステリー要素もあって、飽きることなく読めるであろう一冊です。
いじめがテーマの三部作のうちの一冊です。
こちらがいじめられる側視点。
こちらがいじめる側視点。
そして、三部作の完結となる『わたしのチョコレートフレンズ』は、傍観者側の視点でいじめを描いた作品です。
傍観者側の視点なだけあって、いじめに対するアプローチは比較的緩い印象ですが、子どもの人間関係の複雑さはきちんと書かれています。
リアルな部分と、ファンタジーチックな部分が融合した作品です。
『恋する5ページ名作』
百瀬しのぶ
KADOKAWA

恋する5ページ名作 ―嘘からはじまるロミジュリ片想い― (角川つばさ文庫)
- 作者: 百瀬しのぶ,枸橘
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/05/15
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る
マンガ大すき、手塚結衣です! 大人はみんな「名作を読みなさい」っていうけど、活字は大の苦手…。
な・の・に! 片想いした夏目くんは、名作ばっかり読んでる超文学少年!! だから私も彼が読んでる『吾輩は猫である』を読んで、共通の話題をつくろうと思ったんだけど――3行目でダウン!
ひ~漢字多いしムズいし無理すぎる! そんなとき、読んだ名作全てを5ページのノートにまとめてるという、一ノ貝めくるくんと出会ったんだ。
え、あの分厚い名作が5ページで読めるの? 何それすごい!
「お願い、そのノート読ませて!」
……こうしてあたしの、恋×5ページ名作な日々がはじまった!
去年、萌え絵についての議論が一時期話題となっていましたね。
学校司書としての考えを私も書かせていただきました。
そんな中、出版されたこの『恋する5ページ名作』です。
表紙はまさにイマドキの絵! という感じで、児童書にこういう絵を持ち込むな、という頭のかたい人が文句を言いそうですよね。
でも、実際に私も小学校で司書をしていましたが、いわゆる名作文学というのは、なかなか子どもたちは借りていきません。
無理やり読ませて、やっぱりつまんないやとなって、さらには読書嫌いになってしまう、というのは、一番避けなければいけないパターンです。
この本は、そんな、名作を読んでみようかな、というきっかけを作ってくれるかもしれない素晴らしい本です。
ただ単に名作を紹介するだけでなく、好きな男の子(文学少年)のために、名作にチャレンジする主人公とそれを助ける男の子、というストーリーがあって、それも物語として面白く読めます。
なので、これを読んで、名作にさほど興味がわかなくても、一冊の物語を読んだという意味はちゃんと生まれます。
この中だったら、どれが面白そうだった? ときいてみれば、どれか一冊は気になる本が見つかるかもしれませんし。
そうして、実際にその本を読んでみる、というのは、非常にいいきっかけではないかなと思います。
『シャドウ・チルドレン 絶対に見つかってはいけない』
マーガレット・P・ハディックス
小学館

シャドウ・チルドレン: 絶対に見つかってはいけない (1) (小学館ジュニア文庫)
- 作者: マーガレット・P.ハディックス,くまお♀,梅津かおり
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2018/01/24
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
物語の舞台は、アメリカのとある片田舎の町。
12歳の少年ルークは、両親、ふたりの兄とともに、
森の中の家で静かに暮らしている。
兄たちとちがい、ルークは学校へ行くことも、
友だちと遊ぶこともできない。
なぜなら、ルークは、
政府によって禁じられた3番目の子ども
「シャドウ・チルドレン」だから。
存在してはならない子、それがルークなのだ。
ある日、ルークは、隣に引っ越してきた家にも、
自分と同じような存在がいることを発見する。
思い切って忍びこんだ隣家にいたのは、
自分と同じ3番目の子ども、ジェン。
正義感の強いジェンは、
「シャドウ・チルドレン」の現状をかえようと、
デモを計画していた。
自由をうばわれた子どもたち「シャドウ・チルドレン」が
挑む人口警察とのたたかいの結末は?
そして、絶対に見つかってはいけない子、
ルーク・ガーナーの運命は……?
上のあらすじを読んでいただければ、面白そうな本だということが伝わるかと思います。
面白そうじゃなく、面白いです、この本。
海外小説ですが、翻訳が絶妙で、軽いタッチの文体となっているので読みやすさも申し分ありません。
1巻のラスト、なかなかに衝撃的な終わり方をします。
2巻も出ているようなのですが、まだ読めていないので楽しみにしながら、この1巻を自信を持っておすすめします。
『ぎぶそん』
伊藤たかみ
ポプラ社
音がはじける 胸が熱くなる、
何度でも読みたい青春バンド小説の傑作!
中学2年、「ガンズ・アンド・ローゼズ」に心酔した少年ガクは、仲間を集めてバンドをはじめる。
親友のマロと幼なじみのリリイ、それに、「ギブソンのフライングV」を持っていてギターがうまいと噂――の問題児かける。
ケンカや練習を経て、4人は次第に仲間になっていく。
ガクとリリイの淡い恋、文化祭ライブ、14歳のできごとのひとつひとつが多彩な音を響かせあう青春ストーリー。
本当は、YA、中高生向けの作品のような気もしますが、高学年の、特に女子なんかはこの作品を楽しめるんじゃないかなと思います。
実際、私が勤めていた小学校の六年生の女子は、何人もこの作品を読んで、面白かった! と言ってくれていました。
長い小説を読める子におすすめです。
物語は、主人公のガクが、ギターがめちゃくちゃうまいという噂の同級生(カケル)の家を、友だちのマロといっしょに訪ねるところから始まります。
晴れてバンドメンバーに加入するかけるですが、もう一人、メンバーにはリリイという女の子もいます(ドラム担当)。
この四人がそれぞれに悩みを抱えながら、そして、ぶつかり合いながら文化祭のライブに向けて駆けぬける……というまっすぐな青春音楽小説です。
熱い青春要素もたっぷりなのですが、それに加えて、恋愛要素もたっぷりなのがこの作品のたまらないところです。
あらすじにもありますが、ガクとリリイの淡い恋が、なんともいえない甘酸っぱさなんです。
きっと、ふたりの恋を応援したくなりますよ。
『ポアンアンのにおい』
岡田淳
偕成社
すべては石けんが3階の手洗い場から裏庭に落ちたことから始まった……。浩と陽子は石けんを探している途中、とんでもない怪物が支配するとんでもない世界にまぎれこむ。
ちょっとした言い争いから、石けんを裏庭の池に落としてしまった浩と陽子。
浩はコウモリ語をしゃべるふしぎなこうもりと出会い、そこが、ある怪物によって支配されていることを知ります。
その怪物とは、大きなカエルで、なんでも、のみこまれたら出ることができないシャボン玉を吐き出すカエルなのです。
そして、そのシャボン玉に入れられてしまうのは、悪いやつ。
じぶんが悪いやつだと思っていなくても、カエルが悪いやつだと言ったら、もうおしまいです。
コウモリに、助けてほしいと言われて、そのカエルのいる森に入っていく浩ですが、やがて、大変なことに気がつきます……。
岡田淳3冊目です。
好きなんです。
本当はもっといろいろ、岡田淳作品を紹介し、おすすめしたいのですが、それはまたの機会にします。
この『ポアンアンのにおい』は、すごく日常的なシーンから始まります。
水道のところで、石けんでホッケーをしている浩に、早くどいてよ、と言う陽子。
こういうことをしていた男子、クラスに必ずいませんでしたか?
そして、そういう男子にぴしゃりと正論を言い放つ女子もいませんでした?
こういう、あるあるという何気ない風景から、がらっとファンタジーの世界に転移するさりげない描写が、岡田淳作品の大きな魅力の一つだと思います。
なんでもシャボン玉にとじこめてしまう大きなカエル、という明確な敵がいる今作では、浩の勇気と知恵が読みどころです。
どうやってあのカエルをやっつけるんだろう? と、思わず考えさせられます。
そして、あざやかな伏線の回収も。
物語って楽しい。
純粋に、そう思わせてくれる一冊です。
『顔をなくした少年』
ルイスサッカー
新風舎

- 作者: ルイスサッカー,Louis Sachar,松井光代
- 出版社/メーカー: 新風舎
- 発売日: 2005/12
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
デービッドは親友のスコットが学校で人気グループに入り、自分は仲間はずれになる。いじめっ子と一緒におばあさんの杖を盗んでから、身近に不思議なことが起こりはじめる。
先に紹介した『穴』の作者であるルイス・サッカーの隠れた名作です。
不良グループに入ってしまった親友にくっつくように出かけた主人公のデービッドは、一緒に、近所に住むおばあさんの杖を盗むことになってしまいます。
ひっそりと暮らしているおばあさんにひどいことはしたくない、と思うデービッドですが、仲間の目もあり、つい、やりすぎてしまいます。
そして、逃げていく中で、おばあさんに呪いをかけられてしまうデービッド。
その後、次々と悪いことが身にふりかかり……
葛藤、というのはどんな小説にもあるのでしょうが、この作品、或いはルイス・サッカーの小説には、そのジレンマが非常に効果的に、かつ面白く描かれています。
仲間に認められたい、という気持ちと、でも悪いことなんかしたくない、という気持ち。
そんな板挟みの結果、過ちを犯してしまうデービッドですが、きっと、人というのはそういう過ちをいくつも犯しながら、でも、それを乗り越えたり、克服したりしながら成長するものなのでしょうね。
最後には、あっと驚くスケールの展開が待っていて、きっと、笑顔で本を閉じることができます。
『竜の巣』
富安陽子
ポプラ社
直人と研人のおじいちゃんは、子どものころ、竜の巣にまよいこんで、カエルの子といっしょに竜につかまったんだって!?わくわくする冒険がまっている富安陽子のファンタジー!
高学年だけでなく、中学年からおすすめできるこちらの本。
富安陽子さんといえば、他にも名作ファンタジーはごろごろあるのですが、読書が苦手という子にも、という観点から、こちらを紹介します。
主人公は直人と研人のおじいちゃんです。
そして、これはおじいちゃんが子どものころのお話。
ひょんなことから迷い込んだ竜の巣で出会ったカエルたちと仲良くなり、協力し、竜の巣から逃げ出そうとする冒険譚です。
ハラハラドキドキはもちろんのこと、笑いも感動もあり、小学生の(特に)男子が夢中になりそうな要素がいっぱい詰まった一冊です。
『妖狐ピリカ・ムー この星に生まれて』
那須田淳
理論社
人間たちを恨みながら妖狐として生まれ変わったピリカ・ムーは、3つの願いと引き換えに、人間の魂(ハート)を盗もうとする。 しかし、呪いをかけようとした少年・光太郎の優しさに、気持ちが揺らぎはじめる。
妖怪少女と野球少年、二つの<ハート>が織りなす魔法と希望のファンタジー。
大妖怪になる試験のため、人間のハートをとろうとする妖狐のピリカ。
恋や友情、環境破壊への警鐘といった、ジブリ映画のようなテーマが漂うこちらの作品です。
児童文学らしい、軽妙で読みやすい文章でありながら、その奥底にある自然との共存というメッセージが後半になるにつれて色濃くなっていき、読みごたえは十分です。
↓ねこの手のHPはこちら↓
『むこうがわ行きの切符』
小浜ユリ
ポプラ社
けんか別れした友だちと未来で出会った。時間をさかのぼれるブレスレットの罠。ふとむこうがわの世界に行き、なにか変わって帰ってきた子どもたちの物語。
一度しか会ったことのないひいおばあちゃんのお見舞いにいくと、「やっと来てくれたんか」と言われ、嬉しそうに笑うひいおばあちゃんをちあきは不気味に思います。
押し入れに入って眠ったちあきですが、目が覚めて外に出ると、見たこともない家で、そこには知らない女の子が……
仲良くなった二人はいろんなことをして遊びますが、ちあきは元の世界に帰らなければいけなくて……
タイムトラベルを扱った短編が5作収録されています。
どれも面白いだけでなく、どこか心にずしっとくる話なので、あー面白かっただけで終わりません。
特に、3話目の「ブレスレットの秘密」なんかはもう、トラウマになりそうなレベルでおそろしい読後感。
タイムスリップやふしぎなことが起こる話が好きな子に特におすすめです。
『オリバー、世界を変える!』
クラウディアミルズ
さえら書房

- 作者: クラウディアミルズ,菅野博子,Claudia Mills,渋谷弘子
- 出版社/メーカー: さえら書房
- 発売日: 2010/12
- メディア: ハードカバー
- クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
オリバーが幼いころ病気がちだったため、おかあさんは心配でなりません。だからなんでもオリバーの先まわりをして口を出したり手を出したりしてしまいます。
オリバーもそれが習慣になっていて、なんでも両親、とくにおかあさんにしてもらうことがあたりまえになっています。そのオリバーが、理科の授業で、太陽系の惑星からはずされた冥王星のことをしって、少しずつ変わっていきます。
クラウディアミルズの作品は、過干渉気味の親がよく登場します。
この作品ではそれが特に顕著で、体の弱い主人公のオリバーを心配して、あれやこれやと手を出してしまいます。
育児放棄も問題ですが、こうした、親による過干渉というのも、実際、家庭内によくある問題のような気がします。
それにしても、オリバーの両親の過保護過干渉ぶりたるや、という感じで、
アニメも見れない、おやつは母親の手作りのみ、学校の宿題も両親と一緒にやる……!
そんな両親に思うところはあるけれど、口に出すことができないオリバーくん。
そんなある日、学校の活動で宇宙についてそれぞれが調べ、学習のあとで宇宙合宿をするというイベントが催されます。
参加したいけれど、親がだめと言うに決まっている……と最初は諦めてしまうオリバーですが……
平たく言ってしまえば成長物語なのですが、それを阻むのが両親という皮肉。
そんな親を持つ子どもにも、そして、わかっていつつもそんな風に子どもと接してしまう親にもおすすめの一冊です。
あした、また学校で
工藤純子
講談社
月曜日の朝、小6の一将に声をかけたのは、幼なじみの咲良でした。
「一将の弟、先生に怒られて泣いてたよ」
運動が苦手な弟の将人は、「できない子は朝練に来て」と先生に言われたのに大縄跳びの練習に行かず、怒られたのです。
でも、将人にとって、苦手な運動の中でも大縄跳びは「できる」に入ります。
将人は怒られなくてはならなかったのでしょうか?
『となりの火星人』の作者、工藤純子さんの作品です。
学校はだれのためのもの? というテーマが全編通して 感じられ、読みながら読者もそれを考えながら、登場人物たちと一緒に先に進んでいきます。
現在、あたり前とされている様々な事も、一度疑ってみるとじつは本当に大切なことをないがしろにしているのでは? と思わされます。
まとめ
小学生の高学年の頃になると、本を読む子と本を読まない子の差がはっきりしてきます。
必ずしも、本を好きになる必要はないのかもしれません。
でも、好きな本がある、というのはいいものです。
好きな作家がいて、その作家の新刊を楽しみにしている、というのも。
子どもは、自分がどんな本と相性がよくて、世の中にどんな本があるのかということについても、まだよく知りません。
身近にいる大人が、その子に合った本や、面白いと思ってくれるであろう本を手渡すことができれば、特別な一冊と出合うことができるかもしれません。
この記事を、何かの参考にしていただければ幸いです。
それではまた。