本棚のすき間

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『ぼくらのセイキマツ』伊藤たかみ【書評】

こんにちは。

先日こちらの記事で気になる、と書いた伊藤たかみさんの『ぼくらのセイキマツ』を読み終えたので、その感想等を記します。

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がっつりネタバレもあるので、これから読むという方はご注意ください。 

 

『ぼくらのセイキマツ』

伊藤たかみ

理論社

ぼくらのセイキマツ

ぼくらのセイキマツ

 

あらすじ

1998年、夏、海のないいなか町に暮らすぼくは、ノストラダムスの予言書を読んでいた。

なにも起きない、退屈な町で。

 

ひそかに思いをよせているナナコは、小学校の時からの幼なじみで、今は、友だちのヒロを含めた3人しかいない文芸部の仲間でもある。

彼女は、三年になってから、大きな、古くて汚い人形を学校にまで持ってくるようになった。

真っ白に色が抜けた髪の毛はもじゃもじゃで、ぼくとヒロはそいつのことを隠れて「ゾビ子」と呼んでいた……

 

ナナコとふたりきりになるたびに、ぼくは告白のチャンスを探していた。

この日も、同じバス通学のぼくたちは、一緒に帰っていたのだけれど、ゾビ子の話をしているうちに、ナナコの秘密の場所に行くことになった。

 

そこは、暗いトンネルを抜けた先の不思議な町の中にある一軒の家だった。

その家の部屋のなかで、ぼくはナナコから、ゾビ子との出会いや、ナナコの、死んでしまったお母さんへの想いをきくことになる。

 

沈みがちなナナコを元気づけるかのようなタイミングで、ヒロが、文芸部で海にでも行こうと提案をした……。 

 

感想 

この青春は、目をこらしてよく見ないと、そうとは見えない、淡くて、短くて、まぶしい日々です。

主人公のいっせーがもう盲目的にナナコに恋をしているんですが、そのきっかけが小学二年生の時に、キスをしたのがきっかけだったというのがいいですね。

しかもそのせいで中学生になるまで気まずくなって、へんに距離ができてしまったのに、そのせいでかえって想いが強くなる、というのも。

 

ナナコがいわゆるふつうの女の子じゃないのもポイントです。

ゾンビみたいな人形を常に持っている保健室登校の女の子って、かなり謎めいていてある意味危ない感じもあって。 

 

そんなナナコをめぐる、いっせーとヒロのひそかなバトル(?)も中学生男子! っていう感じがして、最高に面白かったです。

 

それにしても、ヒロが空気……(笑)

海辺のシーンのあとなんて、かなり複雑な思いを抱えていそうな気もしますが、それも中学生男子のなせるわざ、というところなんでしょうかね。

 

それから、好きな男の子にせっけんをあげるっていう、あのおまじない的なもののエピソードもすごく好きです。

それを別の女の子からもらったと知ったナナコの反応も、そのおまじないについて知ったいっせーの反応も。

 

このエピソードで、一気に、自分の中学生の頃の記憶がよみがえってきました。

ミサンガに願いをこめるのとか、生徒手帳に好きなひとの写真を入れておくとか、いろんなおまじないがありましたよね。

 

 

そういう、細かいエピソードが凝っているのも、伊藤たかみさんの小説の好きなところです。

 

久々に伊藤たかみさんのYA・児童文学を読みましたが、やっぱりなんといっても独白のスタイルが好みでした。

名言の数々

読んでいて、この文良いなあと思った部分がたくさんあったので、引用します。

 

恋をすると人は強くなるなんてうそだと思う。ぎこちなくなるだけだ。

 

 

人生にはどんなものにもしめきりがあるなんて、どこかの小説家がいっていたっけ。

 

 

好きな音楽や好きな本がおなじなのもいいけど、どうでもいいところがおなじなのはもっとうれしい。目玉焼きにはしょうゆとか、カレーのルーは左側とか、そういうのが一緒だと、ものすごく仲よくなれる気がする。

 

 

女の子が悲しそうにしていると、男子はやることがわからなくなるだけだ。優しさはちゃんと持っているはずなのに、使い方が急にわからなくなる。

 

 

最近、ナナコといるときの無言が苦手だったりする。告白のチャンスをいつもさがしているのに、静かになると逃げたくなる。

 

 

お母さんは、きみのお母さん。お父さんは、きみのお父さん。当たり前の言葉なんだけど、今のナナコがいうと、それが目に見えない線みたいに見えた県境とか国境とか、そういう、透明のさびしい線みたいに見えた。

 

 

そのときなぜか、小学校をすぎるとツンとしなくなるのはなぜだろうって疑問がわいた。ぼくが子供を卒業したからか。だけど、それになんの意味があるんだろう。バスに酔わなくなったり、あそこに毛が生えたりするのは、理由がありそうだけれども、鼻ツンには意味がない。

大人になると、そこに涙の栓でもできるのかもしれない、なんて考えてみた。ヒロのお姉ちゃんはちょっとゆるんでいるようだけれど、大人は涙を流しまくるとこまるから、自然と鼻の奥に栓ができるのかも。

 

 

ようするにナナコとなら、自分と一緒の部分も、別の部分も楽しいんだろう。まあ、そういうのを恋してるっていうんだろうな。

 

 

「好きホ」

 

 

ぼくの心もななめでできているから、ぴたとはまるものはなかなかない。だから、たまにはまるものを見つけると、もうそれしかないと思いこんでしまう。

 

 

 

まとめ

伊藤たかみさんのYAということで、非常に高い期待を持って読みました。 

(P[い]3-1)ぎぶそん (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[い]3-1)ぎぶそん (ポプラ文庫ピュアフル)

 

同じ伊藤たかみさんのこの『ぎぶそん』という超名作を読んでしまっているので、ハードルがかなり高くなっているというのもありますが、やや、もの足りなさも残る内容だったかな、というところもあります。

 

でも、やっぱりたかみさんの書く、男の子の一人称の物語が好きです。

ちょっととぼけていて、でもやさしくて、決めるときにはちゃんと決めて、でもやっぱりどこかかっこつかなくて、っていう。

 

リアルな男子って、そういうものなんじゃないかなと思うのですよ。

また、YAや児童文学を書かれたら、あるいは純文学でも、伊藤たかみさんの新刊はチェックしていこうと思います。

 

それではまた。

 

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