本棚のすき間

絵本や小説、図書館についてなど、本全般について書いています。

親切と迷惑

その男は、ドアを開けるといつもかしゃかしゃと耳障りな音を立てながら入ってくる。

たいていはコンビニの袋で、学生の買い食いのような中身をぶら下げて、なぜだか不機嫌そうな顔をして、あいさつにもなっていない声を出す。

 

その後、自分をふくめて二人しかいない部屋は、こちらが静かにしていると、他人が食事をしている音だけがする場所、となってしまう。

たとえば、ファミレスやなんかでは数十人もの食事の音が充満しているのだけれど、話し声やなんかで、他人の咀嚼音なんてまるで気にならないのに、二人しかいない空間でそれをやられると、なかなかの苦痛になるということを初めて知った。

 

歳をとると、そうなってしまうんだろうか、と思ってしまうほど、日々、男は昼飯を食べた後必ずげっぷをする。

つい出てしまった、という類のものと思われるものもあれば、堪える気などさらさらないのがありありと伝わってくるようなものも。

 

時おり、屁まで出てしまうらしい。

歩きながら放屁をして、その分上に出るガスは減っただろうと思うのに、聞こえないように舌打ちをする間もなくげっぷをする音が聞こえてきた。

 

昼飯を食い終わった後は煙草を吸いにいく。

部屋の一番奥にある、シンクと窓があるだけの小部屋に引きこもる。

おかげでそこはトイレを除けばその他の唯一の水場であるというのに、爺臭さが凝縮されたようなスペースとなっている。

 

以前、麦茶を作っておくから、好きなときに飲んでいいぞと言われたことがあった。

小さな冷蔵庫には確かに家庭用のポットがあって、開けたひょうしに茶色い液体がたぷんと揺れる。

この臭くてたまらないシンクの水道から出てきた水で作った麦茶かと思うと、それを飲む気には一切ならずに、一応、新品のマグカップを用意してきたものの、まだ一度も使っていない。

 

相手は自分のことを親切な人間と思っているのだろう。

でも、親切ということが迷惑ということもある。

 

男はとにかく気体を体の外に出すことが好きなのか、ため息もよくついている。

げっぷをしたり屁をこいたりため息をついたりと、相手はこちらに苦痛を与えることに快感を覚えているのかと思えてくる。

 

げっぷや屁を自由に操ることは難しいけれど、ため息ならばとこちらも試しにこれみよがしについてみたりもしてみた。

でも、耳が遠いのだろう。

気にするそぶりもなく、またげっぷをする。

 

先日、体調不良を感じて、病院に行ったそう。

すでに痛風や高血圧をわずらっている上に、今回の診断では糖尿の気もあるという結果が出たらしい。

 

さもありなん、という感じで、こちらとしてはあまりにもすっと腑に落ちる結果。

というのも、最初に書いたコンビニの買い食いの袋には、いつも決まってシュークリームやらロールケーキやらみたらしだんごやらの甘味が入っているから。

 

それならば、今後は甘いものを控えよう、という気持ちになるのかと思いきや、そうではないらしく、診断結果が出た日以降も変わらずに甘味を食べては「あめえな、これ」などとつぶやいている。

この男はきっと、かき氷を食べたら不満げに「つめてえな、これ」と言うんだろう。

 

結果を受けとめて何かを改善するわけでもないのなら、もう病院になど行かなければいいのに、と思う。

病院だってそんなにひまではないだろうし。

男は、病院に出してもらった大量の薬を、苦い薬に文句を言う子どもみたいなことをぼやきながらのんでいる。

 

 

 

あの、臭くてしかたがないシンクの水道の水で作った麦茶で。

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