『おかあさんの目』
あまんきみこ:作 くろいけん:絵
あかね書房
あらすじ
主人公のわたしが三つか四つぐらいのころ、あるできごとがありました。
そのとき、わたしは、おかあさんのひざの上に座っていました。
窓から白い日ざしがさしこむ明るい部屋の中で、わたしたちは人形のこととか、犬のレオのこととか、そんなことを話していたような気がしますが、そのことはあまり覚えていません。
覚えているのはべつのこと。
話しているとちゅうに、わたしはあることに気がついて、「あっ」と声をあげました。
おかあさんの黒いひとみの中に、小さな小さなわたしがいたのです。
なんとふしぎだったことでしょう。
夢中になって、わたしは顔をよこにしてみたり、手をふってみたりしました。
おかあさんが、くすぐったくなったように笑うと、ひとみの中のわたしが見えなくなってしまいました。
わたしはお母さんに「目を大きくして」とお願いしました。
お母さんの目にはわたしだけじゃなく、たたみや、みどりのカーテンや、まども入っていました。
わたしは少ししんぱいになりました。
こんなに入っていて、だいじょうぶかしら……。
感想
まず、おかあさんの目に映るじぶんを見てむじゃきによろこぶわたしのかわいさ。
大人になると、別段不思議にも思わないようなことも、子どもにとっては大発見だったりしますよね。
そういう、子どもあるある、だけでは終わらないのが、この絵本の素晴らしいところです。
後半になると、「目に映っているわたし」から、少し角度が変わってお母さんの心の中にあるもの、についての話に変わっていきます。
お母さんの「うつくしいものに出会ったら、いっしょうけんめい見つめなさい。見つめると、それが目ににじんで、ちゃあんと心にすみつくのよ」という言葉が印象深いです。
絵本の中で、わたしはその意味が少ししかわかりませんでしたと言っているように、ある程度人生経験をつむとその言葉の意味がよくわかるのではないでしょうか。
個人的な良い絵本や良い物語の一つの指標として、その本を閉じたあと、世界の見え方が変わる、というのがあります。
この『おかあさんの目』はまさにそれですね。
うつくしいもの、を見たときに、それを心にすみつかせるようにいっしょうけんめいに見つめたくなりました。
そして、このわたしのように一見当たり前と思えるようなことにも感動できるような心をいつまでも持っていたいなと。
くろいけんさんの、淡い、想像力にうったえかけてくるような絵も素敵です。
子どもといっしょに読んで、それぞれの目を覗いてみてほしくなる一冊でした。