百年たったら
百年たったら
石井睦美:文
あべ弘士:絵
アリス館
あらすじ
ずっと昔のあるひろいそうげんに、いっぴきのライオンがすんでいました。
そうげんにはもうこのライオンしかおらず、ライオンは、草や、草のあいだにいた虫を食べて暮らしていました。
なにかもっとにくにくしいものがくいたいな。
そう思うこともありました。
ある日、一羽の鳥が草原におりたちました。
ライオンがゆっくりと近づいても、鳥は逃げもせずに、わたしはもうとべないから、おなかがすいているならわたしを食べたらいい、と言うのです。
でも、ライオンは鳥を食べませんでした。
鳥のからだはちいさく、羽はぼろぼろです。
ライオンと鳥はいっしょに草原で暮らすようになりました。
日の光をあびたライオンの金色の毛を鳥はながめ、とてもいい声でうたう鳥のうたごえをライオンはききました。
しかしある夜、鳥はライオンのせなかからころげおちるようにして地面に下りると、
「わたし、もういくよ」
と言いました。
ライオンは、鳥がどこにいこうとしているのか、わかりました。
「またあえるよ」
と鳥が言い、
「いつ?」
とライオンがききました。
「うーん、そうだね、100年たったら」
くるしまぎれに、鳥はそうこたえました。
そして、草原から鳥がいなくなり、やがてライオンもいなくなり……
感想
孤独なライオンが、ある日草原に下り立った鳥を食べずに仲よくなり、そして唯一の友だった鳥がいなくなり……という、どこかで見たことのあるパターンの絵本かと思いきや、それだけでは終わりませんでした。
現世ではもう会えないけれど、来世では、という願い。
また会いたいという強い思いがもたらした新たな出会いに、じんわりと心の深い部分が温かくなりました。
ネタバレをしたくないのであまり詳しくは言えませんが、個人的にすごく好きな一冊になりました。
短編小説を読んだような読み心地で、ラストのその後を読みたくなるような余韻が残っています。
石井睦美さんは小説家なので、絵本もそうした読み味になるのかもしれません。
学校司書をしていたら、絶対に読み聞かせしたい。
特に、高学年に。
そう思わされた一冊でした。