中村航『#失恋したて』について
中村航さんの新刊が出ていたので、読みました。
事前情報を手に入れておらず、書店で棚にさしてあるのを見つけ、すぐさまレジへ。
中村航さんの恋愛小説が大好きなので、タイトルからしてわくわく。
前編読み終えて、昔の中村航さんの作品を初めて読んだときのことを思いだしました。
やっぱり、中村航さんの恋愛小説が大好きです。
ここから、ネタバレ満載の記事となります。
『#失恋したて』
中村航
あらすじ
大学生のなつきと、社会人の亮平の久しぶりのデートのシーンから話は始まる。
大好きな人と一緒にいる喜びを感じながら、でも、なつきは、亮平がスマホを見てばかりいたり、いつもデートの場所を自分が考えていたりすることに、もやもやしてしまう。
就職活動をしているなつきは、亮平に忙しくてなかなか会えなくなるかも、という話をする。
すると、「おれが就活してたときは、結構、会えてたよね?」と言われてしまい、その後も気まずい空気に。
しかし、場をとりなすように亮平が提案した夏の北海道の旅行計画に、なつきも一気に心がおどった。
北海道旅行に、心の荷が下りた状態で行くべく、なつきは就職活動にまい進する。
亮平がいる東京での勤務を志望し、最終面接に進むことも。
でも、なかなか内定はもらえないまま、北海道旅行の日はやって来る。
北海道に着いたなつきは、出張に来ている亮平の仕事が終わるまで、幸福駅という場所を観光する。
亮平からはなかなか連絡が来ず、外はずい分暗くなっていた。
もう使われていない車両に乗り込み、亮平に「今どこ?」とメッセージを送ると、亮平からは「ごめん、東京」という返事が。
混乱したまま、なつきは「どういうこと?」ときく。
すると「おれたち別れよう」と。
最近、会える日が少なく、そうしている間にほかに気になる人ができてしまった。なかなか言い出せなくて……。
亮平から送られてくる文に、なつきは目を疑った。
ごめんと言うばかりの亮平に、なつきは次第に腹が立ってくる。
「ずっと楽しみにしてきて、わたし今、こんな誰もいないところに一人でいるんだよ! 今日だってずっと待ってたのに……別れたかったなら、昨日言えばいいでしょ! どうして昨日言わないの?」
「ごめん」
車両から出たなつきは、雨にうたれながら、涙する。
と、そこに、スマートフォンの通知音が鳴った。
亮平からのメッセージだろうか、と画面を見つめると、そこには、何日か前に最終面接をした会社からの「お祈りメール」の文面が。
どうして、こんなタイミングで、こんなものが届くのだろう……。
誰にも必要とされていない悲しみに、なつきは、びしょ濡れの顔をふった。
人気のない幸福駅で、「幸福じゃない!」となつきは叫ぶ。
次の日、北海道に残ったなつきは、失恋の聖地を探そうと検索をする。
そして、「#失恋したて」という動画を見つける。
それは、昨日幸福駅で「幸福じゃない!」と叫んでいた、ずぶ濡れの自分が撮影された動画だった……。
感想
久しぶりに、中村航さんの小説だ、という感じがしました。
あらすじに書いた、失恋したてのなつきが幸福駅で泣き叫んでいる動画を本人が見つけた辺りから、物語は一気に加速していきます。
動画を撮影し、アップしたのは小学生ユーチューバーの遥希くんという男の子。
この、遥希くんが全然小学生らしくないことを言うし、もの凄く小学生らしい行動をとったりで、かわいいんですよね。
最初の方は、「いやいやちょっとこのセリフは……」となってしまったのですが、それにもちゃんと理由があって。
大きなできごとは起こりません。
が、人間だれしも、そうしたふつうの日々の中で、傷ついた心をいやしたり、何かを忘れていったりするのでしょう。
それにしても、主人公のなつきはタフな女の子です。
北海道で合流する予定が、いつになっても現れず、ラインで「別れよう」と言われ、置き去りにされてしまうのです。
そこで開き直れる強さが、なつきをこの再生の旅にいざなったのかもしれません。
好きな場面は、なつきの失恋したての動画に集まってくる、数々の失恋エピソードに返信を考えるところです。
失恋して、どうすればいいのか、という解決策を聞きたいというよりも、とにかくこういう失恋をしたから聞いて、という感じ、わかります。
失恋難民が集まって、そういう話を投稿して、それに誰かが救われる世界というのはやさしくてありなんじゃないかなと。
もっともっと、中村航さんの現在進行形の恋愛小説を読みたくなりました。
個人的には、『夏休み』や『あなたがここにいてほしい』や『絶対、最強の恋のうた』といった過去作品が大好きなので、ああいうのもまた読みたいです。

- 作者: 中村航,宮尾和孝
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/01/23
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 12回
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それから、今作には中村航さんの既刊を読んでいる方には嬉しいサプライズもあって、あの作品を読みかえしたくなりました。
どの作品かは、ぜひ、この小説を読んで探してみてください。
前作の『サバティカル』についてはこちらの記事で感想などを書いていますので、よろしければ。