各クラスのオリエンテーションが終わると、朝や休み時間に子どもたちが図書館にやって来るようになった。
まだイベントも何もできず、ただ、子どもたちが来てくれるのを待っているだけの時期で、それでも図書館に来る子たちというのは、あとではっきりしたけど、本当に本が好きな子たちだった。
図書館では静かに、というのは当然のルールなわけだけど、それでも、今の子どもたちの求める本を知るためにも、とうっとうしく思われない程度に話しかけた。
どういう本が好き?
図書館にどんな本がもっとあったら嬉しい?
去年はどんなイベントがあった?
とかそういうことをヒアリングしていく。
そんなことをしていると、ある日、5年生の女の子が何やら折りたたまれた紙切れをもってきた。
「先生、これ、絶対に読んでくださいね」
なんだか必死さすら感じさせる言い方で、いったいどんなことが書いてあるのか……とどきどきしながら開いてみると、
「わたしは怖い本やホラー系がだいっきらいです。なので、ぜったいに図書館の時間に読みきかせしないでください」
という文章が、えんぴつで何度も強くなぞるように書かれていた。
その書き方がけっこう怖かったのを覚えている。
もしやったら許さない、絶対に許さない、という感じの。
5年生の図書の時間の読み聞かせは、怖い話は扱わないこと。
児童主導によるタブーがいきなり出来てしまった。
でも、言ってくれてよかった気もした。
もしもこのことを知らずに、子どもたちはやっぱり怖い話が好きでしょう、とそういった物語を読んでしまっていたら、この子はおそらく図書館や司書をきらいになっていただろうし、失くさなくてよかったものを失くしてしまっていたかもしれない。
これはこれで、けっこうぞっとした。
そういう、感覚的にいやだと思うものを扱わないというのはもちろんだし、潜在的に触れられたくないような話題というのもあるはず。
読み聞かせというのは、子どもを楽しませるものである一方で、時として子どもを傷つけたり不安にさせてしまうものにもなるということをこの一件で知った。
ということで、5年生にどんな本を読めばいいのか、ということを考えるきっかけに。
そんな中、6年生のオリエンテーションを終えたあとで、そのクラス(単級なので1組のみ)の担任の先生からこんな話が。
「先生ね、申し訳ないけど、6年生はやらなければいけないことが多くて、図書の時間にほとんど来られないと思うけど、よろしくね」
あ、はい、わかりました。
としか答えようがなかった。
そういうものなのだろうか、と思った。
6年生に毎週何を読み聞かせしたらいいのかもわからなかったので、こんなことを言ってはいけないんだけど、少し安心してしまった部分も。
個人的には、5・6年生への読み聞かせはそんなにがっつりやらなくてもいいのでは、と思ってもいた。
自分がどういった本が好きで、こういう本を読みたい、というのもある程度固まってきているだろうし。
とはいえ、何もしなくていいとは思っていなくて、まだ出合っていない本で、こんな面白いものもあるという、本との出合いは作りたかった。
そこは、図書の時間ではなくても、展示や企画等でできないことはないので、まあよしとしよう、と。
ちなみに、以前給食時の支援について声をかけてくださったのもこの先生。
再雇用のベテランの方で、いつもどっしりとしてらっしゃった。
毎週来るわけではなくなったけど、時には来ることもあると思うので、そういう時のために、いつでも何かできる状態にはしておこう。
そんなことを思った四月の半ば。
つづく。