本棚のすき間

絵本や小説、学校図書館のあれこれ

「反省」という名のもとでする読書の話

罪を犯してしまった生徒の「反省」として、読書をさせることになったので何か適当ないい本はないかと、学年主任の先生が図書館に来た。

個人的には、読書は何かを「反省」するために行うものではないと思っているし、学校司書としても、そのような意図で、読書を強制することには賛成できない。

でも、その先生がそういう方針であるならば、ここで自分がそれに抗ったとしても、別の手段で何か本を読ませることになるだけかもしれない。

そう思ったら、ここは自分が一番いい選書をして、なんとか、「反省」という名目でありながら、もっと意味のある読書体験の機会をつくるべきなんじゃないか、という気持ちになった。

 

で、どうしようかなと。

 

いかにも道徳的な、悪く言うわけではもちろんないんだけど、課題図書みたいなのはナシ。

それこそ、読まされて読むべきものじゃない。

 

あとは、いわゆる名作文学みたいなのもやめておこうと思った。これが入口になる可能性ももちろんあるけど、反省文学みたいなイメージがついてしまうのもどうかなって。

 

高校生らしいもの……と考えて、ぱっと出てきたのが、金城一紀の『レボリューションNo.3』。

レヴォリューション No.3 (角川文庫)

レヴォリューション No.3 (角川文庫)

  • 作者:金城 一紀
  • 発売日: 2008/09/25
  • メディア: 文庫
 

オチコボレ男子高生たちがさえない生物教師のとある言葉に触発され、ご近所のお嬢様女子校の学園祭に潜入し、電話番号をゲットしに行く、という、およそ「反省」という言葉とは真逆にあるような小説。

 

高校生のような若者が罪を犯してしまうのって、いろんな理由があると思うけど、一つには、自分の人生を大切に思えていない、ということが少なからずあるような気がする。

どういう生徒なのかも、顔もしらないけれど、彼がそういう、やけっぱちな気分が要因だったかどうかはわからない。

でも、この小説を読んで、人生とまではいかなくても、自分や、友だち、それから今という時間を大切に感じてもらえたら……という気持ちをこめて、このばかばかしくもどこか切ない『レボリューションNo.3』を先生に託した。

 

 

その翌日、昼前くらいに、先生が図書館に来た。

「昨日の本が面白かったそうで、また次に読むといい本を何か貸してください」とのこと。

マスクをしていたので、向こうには伝わらなかっただろうけど、こちらはそうとうしめしめという顔をしていたと思う。

話を聞くと、べつに一日で読んでこいと言ったわけじゃないらしい。

でも、一日で読んできた。

 

「あー、なんか「反省」で本読まされんのか、だりいなあ……お、結構読みやすいじゃん、しかもなにこれすげえばかなことしてるし、えー、どうなんの? これ。うわ、まじか、そういう展開……読み終わっちゃった」

と、そんな風だったかは知らない。

でも、本を一気読みしてしまう時って、だいたいみんなこんな感じなのでは。

 

次はどうしようかと思って、伊藤たかみの『ぎぶそん』を渡した。

(P[い]3-1)ぎぶそん (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[い]3-1)ぎぶそん (ポプラ文庫ピュアフル)

 

ザ・青春! というこの小説も、べつに「反省」とは何も結びつかないのだけれど。

とにかく、きみたちはこういう時間を過ごすことのできる世代で(コロナでいろいろあるけれども)、犯罪に心を向けるのではなく、今を大切にしてほしいという想いがあったのかなかったのか。

 

たぶん、単純にこの小説最高だから読んでみて! という気持ちの方が強かった。

というか、何冊読んだら「反省」が達成されるのか。

もう、それは建前でしかなくって、学校司書としては、これは、一人の少年が本を、読書を楽しいと思える人間にするための時間、という感じがしてきていた。

たった一冊の本でもそれは可能というのは、自分の身をもって経験してる。

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『ぎぶそん』はどうだったかな、と思っていると、翌日、別の先生が男子生徒と一緒に図書館に来た。

その先生の手には『ぎぶそん』が。

ああ、この子が「反省」をしている子なんだとわかった。

また、次の本を借りにきたらしい。

 

「『ぎぶそん』はどうだった?」ときくと、「面白かったです」と返ってきた。

まあ、直接きかれればそう言うしかないか、とも思ったけど「ひと晩で2周しました」という続きがあって、良い意味でたまげた。

それは「反省」のためにしたとは思えない。

一度読んで、すぐにそれをまた読み返すというのは、それがめちゃくちゃ面白かった時だけに起こることのはず。

たまにある、トリックを知ってから読みなおすと二度楽しめるというような小説もあるけど、『ぎぶそん』にはその要素はない。

 

どういうものが好き? と質問すると、「音楽系が……」と小さな声で返ってきた。

『ぎぶそん』はド直球のバンド小説。

なるほど、と思った。

そして、自分はなんて勘が鋭いというか運がいいんだろうとも。

 

最初の『レボリューションNo.3』とどっちがよかった? ときくと、『ぎぶそん』の方が、という返事。

 

「反省」と称した読書で、読まなければいけなくなった本が、ひと晩で2周するほど面白かった。

それは、彼にとっても意外なことだったかもしれない。

 

音楽系の話が好きということがわかったら、次に読んでもらうものはもう決まっていた。

それがこれ。

ビート・キッズ-Beat Kids

ビート・キッズ-Beat Kids

  • 作者:風野 潮
  • 発売日: 1998/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

風野潮の『ビート・キッズ』。

1と2があって、前半は吹奏楽やマーチングバンドの話、後半がロックバンドの話がメインという、音楽好きには自信をもっておすすめできる作品。

 

『ぎぶそん』は関西が舞台で、こっちも大阪の話。

 だから、関西弁でつまずくこともたぶんないはず。

とりあえず1を読んで、面白かったら2もと思ったら、「2冊とも借りていきます」と言う。

 

たぶんだけど、2からバンドの話がメインと言ったので、それを楽しみに、早く読みたいと思っているのではないだろうか。

しめしめ、だ。

バンドの話も面白いけど、この小説はそこに至るまでの話もめちゃくちゃ面白い。

 

それが、今日の話。

明日もまた図書館に来るだろうか。

『ぎぶそん』と同じように『ビート・キッズ』も気に入ってもらえていると嬉しいのだけれど。

 

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