本棚のすき間

絵本や小説、学校図書館のあれこれ

【レビュー】『日本村100人の仲間たち The HOPE』

新型コロナウィルスの話題を、以前ほどあまり耳にしなくなってきました。

八月後半辺りから、どことなく、新規感染者数等への関心が薄れはじめ、それまでの意識がなあなあになってきているような感じも(自分だけかもしれませんが)。

いま、なあなあと言いましたが、それは状況が落ち着いてきているという良い意味での流れでもあるのでしょうし、ひねくれた見方をすれば諦めやそうした状態への慣れでもあるようにも思えます。

とはいえ、いつまでも新宿周辺までもががらがらだったあの頃のように暮らしていくわけにもいきません。

あたり前ですが……。

 

ゆっくりと、とり戻そうとしているのでしょう。

それまでの生活の中で、大切にしてきたものの何かを。

あるいは、新たに築きあげようとしているのか。

 

日本村100人の仲間たち The HOPE

日本村100人の仲間たち The HOPE

  • 作者:吉田 浩
  • 発売日: 2020/08/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

今回、上の『日本村100人の仲間たち The HOPE』という本を読んで、渦中(現在も間違いなく渦中ではあるのでしょうけど)にあった様々なできごとを(既に懐かしく)いろいろと思い出しました。

それは、コロナ離婚という言葉がニュースで流れているのを耳にしたり、2枚ずつマスクが配られたり、お年玉を使ってマスクを作った中学生が話題になったり、そういう、無かったことにはならないけれど、あったことを徐々に忘れていってしまうようなもろもろのできごとたちです。

 

忘れちゃいけないこともあるのでしょう。

それから、今後の暮らしの教訓になり得るものも。

 

この本は、世界やそれぞれの国を一つの村として、そして、その長を村長として、こんなできごとがあり、こんな人たちがいて……という、コロナ禍のヒストリーブックのような形になっています。

全部で約50ものエピソード。

 

ニュースをよく見ていたという大人にとっては、あったねそんなことも、という話が大半かもしれません(個人的には世界のできごとは知らないことがけっこうありました)。

語り方や本の雰囲気からしてみても、子どもを主な読者と想定しての本のように感じられました。

ルビがふられていれば、小学生でも容易に読むことができる内容ですが、ふられていないので、そこはルビありの方が、より広く、多くの読者に直接語ることができたのではないかなと思いました。

もしも第二版が出るのであれば、検討していただけると幸いです。

 

今日に至るまでいろいろなできごとがあった中で、たいていのことは、よくわからないうちに決められてきました。

こう、と定められたわけではないけれど、そうした方がいいだろう、そうしなければ周りから白い目で見られてしまうだろう、というようなことも。

 

子どもたちは、特に、知らないところでいろいろなことが決められていき、悔しい思いやかなしい思いをたくさんしてきたことと思います。

先日放送されていたテレビ番組でも、全国の様々な高校の生徒たちが、自分たちの文化祭や運動会等の延期や中止の話が、知らない所で知らないうちに決められ、そのプロセスがわからないということに不満を感じているという話をしていました。

 

もしも自分が今年中学三年生だったら、とか、もしも自分が小学一年生だったら、とか、そういうことはもう想像するしかないのですが、それでも、現実にその状況を生きている子たちの気持ちには追いつけない気がします。

 

感染への意識がいくらか薄らいできている現在でも、そういう悲劇は続いていて。

実際に、勤務校の修学旅行も中止に。

代替案も考えられていたものの、検討の末白紙の状態。

 

文化祭も中止にはならなかったものの、規模を縮小し、外部からの来校は一切無くした形での開催となりました。

多くの生徒が中心となったり、主役の場があったりする三年生は、特に残念そうでした。

 

もう、高校を卒業した人たちはその無念はよくわかるでしょう。

誰にとっても修学旅行や文化祭は楽しいものとは限らないでしょうけども、まあそれは置いといて。

 

そういう意味でも、この本は、自分たちが被ってきたいろいろの背景に、どのようなできごとがあったのかということを知ることができます。

ここに書かれていることは、もちろんそのほんの一部でしかないかもしれませんが、知りたいと思うきっかけになるということもあると思います。

 

また、この本は「統計データで読み解く」とあるように、いろいろなデータ、数値が作中で示されています。

村人の中の何人のうちの何人が〇〇していた、という具合に。

 

個人的に面白く感じたのは、アメリカ村のハーバード大学による研究の話。

「人生を幸せにするのは何か?」という問題を解くために、75年もの歳月をかけ、724人の男性を研究したというもので、その結果は、

「よい人間関係が人を幸せにする」

というものだったそうです。

 

なぜ、その対象が男性だけなのか、という疑問もありますし、そりゃそうだろうよという結果でもあります。

とはいえ、今回のコロナ禍は、その人間関係、表出していない部分が、いろいろと露見したということもあるのではないかなと思いました。

先ほどの、コロナ離婚というのも、このコロナ禍によって、それぞれの人間性が大きく変わったりしたというよりは、もともと持っていた性質や、ふたりが抱えていた問題が隠しきれなくなった、という話でもあるような気がするのです。

 

人間関係の悩みが尽きない人生の上にありつつも、よい人間関係とはどういうものなのかというのは、あまり深く考えずに今日まできてしまいました。

 

よい人間関係ってなんなんでしょう。

 

これに関しては正解というものはないのでしょうが、個人的にすぐに思い浮かぶのがムーミン谷の人たちの関係です。

 

「個々の違いを尊重する」「お互いに干渉しない」「自分(独り)の時間を大切にする」という、適度に親しみ、適度にほっといてくれる、そんなちょうどいい関係性。

ムーミンはちょっとスナフキンに対して重い時もあるんですけど、ぎりぎりセーフという感じ。

 

それでいて、浮かない顔をしていたりすると心配はするし、ニンニのような子にはかいがいしく世話をしたりも。

そういう関係を現実世界で築こうと思ってもなかなかできないことではあるのでしょうが、理想的な形だと思います。

 

でも、だからこそ難しいということもある気がします。

 

 

それから、こんなデータも気になりました。

 

100人中15人の子どもたちが、「パパとママの仲が悪くなった」と思っています。

100人中38人の子どもたちが、「家族といる時間が増えて、イヤ」と思っています。

(NPO法人ウィーズ調べ)

 

というものです。

父親がテレワークをするようになって家にいることが多くなり、それにより夫婦仲が悪くなる、というのは皮肉な、笑えない話です。

 

大人というのは、まあ、どうにでも逃げ道というか、ほかに行きようがあると思うのですが、子どもはなかなかそうもいきません。

それは、学生、子どもの自殺、という問題とも関わってくると思いますが……。

 

自粛を強いられている中で、学校は休校、塾も休みかオンライン授業、友だちの家にも外にも遊びにいけない、となると、その時間の大半を家の中で過ごすことになるでしょう。

その家の中で、父親と母親が険悪なムードでいれば、それは家族といる時間、家にいる時間がイヤだと思うのも無理はないのではないでしょうか。

しかも、友だちとの時間や部活動といった、楽しい時間の多くを奪われている中で、ですから、なおさらです。

 

それに比べて大人は、という言説も一時期はありましたね。

子どもたちの多くが自粛を強いられ、いろいろなことを我慢せざるをえない状況でいる一方で、一部の大人たちがそういう思いを踏みにじるかのように平気で飲み歩いていたり、スポーツジムでクラスターを発生させたり、というような。

 

現在ではもうずい分状況も変わったかと思いますが、そういうことがあった、というのは覚えておくべきことのような気がします。

子どもたちが割を食う世の中でいいとは思えません。

 

 

世界はこれまでの暮らしの中のなにかを失い、新たなあり方を模索し始めています。

そうした意味でもこの本は、子どもとともにコロナ禍の中の様々なできごとを思い出しながら、今後の世界、日本について考えたり、自分自身がどのように行動すべきかを考えたり、ということに役立てられるのではないでしょうか。

 

 

www.nahdaannun.com

 

www.nahdaannun.com